玉響物語 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
“令和”で注目された『万葉集』。 日本最古の和歌集で約4500首が収録されている。 歌の詠み手は天皇、貴族だけではなく、防人、農民など幅広い階級層。 短歌だけではなく長歌、旋頭歌もある。 と、一通り教科書等で習った知識はあるのですが、きちんと読んだことはありません。 勿論、有名な歌の何首かは知ってはいますけれども。 いつか読みたいと思っていたのですが、縁あって先にこちらの本を読ませていただきました。 最初に『玉響物語』、菟原娘子(うないおとめ)の伝説が語られます。 里長の娘、菟原娘子は神の姫として里の民の拠り所となっていました。 幼い頃から内気な少女であまり人前に出ず、美しく成長した菟原娘子に里の若者達は懸想しました。 中でも一番恋焦がれていたのは菟原壮士(うないおとこ)でした。 彼はいずれ菟原娘子を妻にしたいと思っていました。 里に新しい宮を作ることになり、山人達がやってきます。 菟原娘子の目をひいたのは茅渟壮士(ちぬおとこ)でした。 彼は捨て子で山人達を率いる山長に育てられたのでした。 惹かれ合う二人。 そんな二人に心穏やかではいられない菟原壮士。 ついに菟原壮士と茅渟壮士がぶつかる時がやってきます。 その時、菟原娘子は ――― 。 結末が予想出来てしまう物語ですが引き込まれます。 菟原壮士も菟原娘子も、また茅渟壮士も若く純粋なのです。 そんな彼らの伝説を詠んだ歌が万葉集には収められているのです。 本書の後半は《乙女のための万葉集講義》、万葉集の歌が紹介されています。 多摩川に さらす手作り さらさらに なにぞこの子の ここだ愛(かな)しき 音の響きが心地よくリズミカルな歌です。知っている方も多いと思います。 私も数少ない知っている歌の中で好きな歌です。 母にかかる「たらちね」や、光や天にかかる「久方の」等の枕詞や、 さきほどの「多摩川にさらす手作り」のような序詞など、 昔の人も言葉で遊んでいた(というと語弊がありますが)と思うと楽しい気持ちになります。 万葉集の中には哀しい歌もありますが、本書を読んで、菟原娘子の伝説に思いを馳せると、 また違った味わいもあるかもしれません。 素敵な装丁の本書を眺めているだけでも安らいだ気持ちになれて幸せです。
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