堕ちた英雄 の商品レビュー
南アフリカで黒人初の大統領となったネルソン・マンデラは日本人にも良く知られている。南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)を廃止し、世界中の黒人解放・民族的な差別の撤廃の礎とも言われる彼の政策にノーベル平和賞も授与された。一方ジンバブエのムガベを知る日本人は殆ど居ないだろう。正...
南アフリカで黒人初の大統領となったネルソン・マンデラは日本人にも良く知られている。南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)を廃止し、世界中の黒人解放・民族的な差別の撤廃の礎とも言われる彼の政策にノーベル平和賞も授与された。一方ジンバブエのムガベを知る日本人は殆ど居ないだろう。正直なところ本書を読む前の私は、ジンバブエという国ですら、アフリカの貧国の一つかな、というくらいにしか考えていなかった。場所は南アフリカ共和国のすぐ北側に位置し、四方を他国に囲まれ海に面していない内陸国だ。私でも知ってる様な有名な観光地としては、西端に位置するヴィクトリアフォールくらいだろうか。そんな乏しい知識の私だから、当然ダイヤモンドぐらいしか資源は無いんだろうと漠然と感じていたが、それ程外してもいないようだ。過去にはアフリカのパン籠とかアフリカの穀物庫と呼ばれる程、農業収入で支えられた経済だったそうだ。 そんなアフリカの一国家も1960年代に西洋の植民地主義の下での、白人からの独立運動が盛んになり、そうした運動の中からムガベが歴史上に登場してくる。ムガベは白人支配の土地の解放を求めて闘い念願の独立を果たす。なお、ジンバブエという国名はグレート・ジンバブエと呼ばれる石像建築遺跡に由来する「石の家」という意味だそう。名前の通り、地下鉱物資源も豊富で中国を始めとする諸外国から経済的に狙われる理由にもなっている。 ムガベはその様な時代に現れ、その後失脚する2017年まで40年近くも独裁政治を展開する。当初は白人の土地を本来的には自分たちのものとして補償もないまま取り上げて黒人に分配するなど、圧倒的な人気を得ていたが、グレースという若い妻を娶ったあたりから、国民の心も離れていく。原因はアフリカのイメルダの異名を持つ婦人の浪費グセや婦人を取り巻く支配層にあったと言われる。とは言え反対勢力の弾圧などで超長期に政治体制を維持してきたわけだから、やはり相当な知恵と力とカリスマ性を持ち合わせていたのだろう。 筆者は新聞社の南アフリカ支局員として直接ムガベへのインタビューも成功させており、ジンバブエの体制派・反体制派、土地を奪われた白人、分配された黒人側など様々な人々への取材を行っている。感じるのは人々によって受ける印象の違いだ。ムガベの政策は軍組織優遇と言われたが、軍部は解放された農地のうち肥沃な土地を優先的に分配されたことで、ムガベへの信は厚い。一方で農業技術に長じた白人が数十年かけて生産性を上げてきた土地を無理やり経験の無い黒人に分配することについては黒人内部からも疑問の声は上がった。現にGDP成長率9%近くあった国力は一気に半分の成長率に下がったし、ジンバブエドルの価値を急激に低下させ、一時期は2億%以上のハイパーインフレを引き起こしたそうだ。インタビューを受けた人からは皮肉の意味でムガベのお陰で誰もが億万長者になったと言っていた。 だがムガベの政策全てが強引で短絡的な考えでないことにも本書は触れる。教師出身の彼は国の基本は教育にあるとし、将来を見据えて誰もが平等に教育を受けられるようにした。元々教育熱心な国であったそうだが、識字率は95%を超えたそうだ。問題はその後の経済政策になるのだが、良い大学を出て知識を身につけた若者であっても就ける職がない。そのお陰で隣国の南アフリカに逃れ、レストランのウェイターやトラック運転手で稼ぐものが大半だそうだ。理想だけでは上手くいかず、教育政策と受け皿が一体に行われない典型的な例だろう。 ムガベは最後は軍部により軟禁状態となり、自ら大統領の職を辞した。その後の政治でもジンバブエの経済は改善されず、国民から再び待望論が上がる頃、療養先の東南アジアのシンガポールでひっそり息を引き取った。 黒人解放の父として世界から尊敬されるマンデラ。一方で40年近く独裁を続け、西欧諸国からも金正日に続く最悪の独裁者と評されたムガベ。2人の違いを明らかにするために、本書後半はマンデラの政策について紹介している。マンデラは白人との融和を重んじた政策を取ったことから西欧からの受けは良く前述の通りノーベル平和賞も受賞している。しかしながら一期で終え、その後黒人内部からも白人寄りと批判を浴びるなど理想であったかは判らない。寧ろ西欧社会よりの政策で普段そちらの意見が入ってくる日本では良いイメージが定着したと言える。
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新聞で見ていた「只の独裁者」との余りの違いと「独立を勝ち取った英雄」と言うには余りにもな…結論の出ない歴史を読んだ。
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私自身は著者と世代が近いので、同世代の日本人記者の視点からの、ムガベ本人への取材や多くの現地取材の情報は興味深かったです。
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ジンバブエ独立の立役者で、一時期は「ジンバブエの奇跡」とも呼ばれた治世が、晩年は強行な白人排斥に端を発っしたハイパーインフレと独裁、虐殺などで金正日に継ぐ最悪の独裁者と評されたロバート・ムガベを描く。 著者は隣国 南アフリカでヨハネスブルグに在住し、ムガベ辞任の日にはまさにジン...
ジンバブエ独立の立役者で、一時期は「ジンバブエの奇跡」とも呼ばれた治世が、晩年は強行な白人排斥に端を発っしたハイパーインフレと独裁、虐殺などで金正日に継ぐ最悪の独裁者と評されたロバート・ムガベを描く。 著者は隣国 南アフリカでヨハネスブルグに在住し、ムガベ辞任の日にはまさにジンバブエに滞在し、ムガベとの単独記者会見の経験もあるという、朝日新聞記者。もともと朝日の外電はレベルが低いことで有名だが、これだけ稀有な歴史的瞬間に立ち合い、様々な人々に取材しながら、この程度の議論しか展開できない人間がヨハネスブルグ支局長なのかと唖然とする。記者本人が運動不足な話など、どうでもいいのだ。
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長く政権を担うこと それは本人だけでなき、周りの影響、周りの対応にも節制を強いること 並大抵でやはり無理なのか 今の世にうったえるな 英雄だととくに、、、 なんの英雄でもない輩だと なおさらですな。
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ジンバブエのムガベに迫った本と言いたいところだが、何一つ肉薄できていない。周辺調査も浅く、取り立てて読む必要はないと思います。
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