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オーガ(二)ズム の商品レビュー

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2019/10/23

「シンセミア」「ピストルズ」に続く神町トリロジー最終作。阿部和重は神町を書くのはこれで最後だとあとがきで述べている。本当に最後なんだな...と思わせる大作である。 阿部和重作品を初めて読んだのは、本作品でも散々言及される「スパイ養成所出身者の日記という設定」の「インディヴジュアル...

「シンセミア」「ピストルズ」に続く神町トリロジー最終作。阿部和重は神町を書くのはこれで最後だとあとがきで述べている。本当に最後なんだな...と思わせる大作である。 阿部和重作品を初めて読んだのは、本作品でも散々言及される「スパイ養成所出身者の日記という設定」の「インディヴジュアル・プロジェクション」であるが、それ以前の阿部和重作品はよくも悪くも形式的な文章に拘っているように読め、(全く内容が思い出せない)「ABC戦争」始め、「とにかくなにがなんだかよくわからず、情報が絡まって複雑極まりないが、力業で押し切って読ませてしまう」文体だった。当時高校生だった私の脳は爆発寸前であった。 これまた本書に言及がある「ニッポニアニッポン」、すなわち「シンセミア」以降の阿部和重は情報量をそのままに文体を変化させている。それは純文学の論理の中にエンタメを巧みに組み込んで大風呂敷を広げまくる作品であり、広げ切った風呂敷をそれでも(広げる前のようにはいかないが)畳むことのできる稀有な作家となった、ように思う。 やっと本作「オーガ(二)ズム」の話に移ると、主人公は「テロリズム、インターネット、ロリコンといった現代的なトピックを散りばめつつ、物語の形式性をつよく意識した作品を多数発表している」作家・阿部和重である。自己を投影した主人公の紹介がWikipediaからの引用である点がまず興味深い。彼の家に血塗れの外国人が転がり込んでくるところから物語は始まり、「シンセミア」「ピストルズ」のみならず「ニッポニアニッポン」「ミステリアスセッティング」などの著作を巻き込みながら物語はどんどん広がってゆき、そして「神町」に収斂する。 兎にも角にもまずはこの小説の情報量である。ニュースからの引用を巧みに構成した物語世界は、明らかにぶっ飛んでいるのにリアルである。この構成力には舌を巻くほかない。そして、情報の細かさ。とにかく商品名から何から何まで具体的名称に拘った表記。読みながら何度かGoogleのお世話になった。 そして極上のエンタメ、ロードノベル感を提供しながら圧倒的に描かれるのがこの日本の形。CIAにひたすらこき使われる阿部和重(彼が「アッシュ・ケッチャム」の渾名を付けられるのはさすがに調べて笑ってしまった)、本人も「属国人」と名乗る日米関係。そしてその裏で暗躍するものの「望み」。広げに広げた風呂敷を大団円で畳まず、26年後に飛ばして見せる日本の形。 そして私もすっかり忘れていた「アヤメメソッド」。この力の強大さが物語に「信頼できない語り手」を頻出させ、物語が複雑化する。と同時に「人の心を操る」とは何なのか、人心とは何なのかを昨今の社会情勢とともに考えずには居られない。 「神町サーガ」のなかでもとりわけ読みやすいこの作品は、齋藤環の指摘もあるように伊坂幸太郎との共著「キャプテンサンダーボルト」を想起させる。リーダビリティも人への薦めやすさもトリロジー中いちばんだ(「シンセミア」は表立って人に薦めにくかった...)。トリロジーを全部読むのが厳しいと思っても、この1冊から遡っても全く問題ないので、是非この大きな偽史物語を読んでいただきたく思う。

Posted byブクログ

2019/08/09

【『シンセミア』『ピストルズ』に続く神町シリーズ最終章!】ある夜、阿部和重邸に、アメリカから瀕死の諜報部員が転がり込んだ。時空を超えた壮大な旅が始まる。日米を股にかけた大巨編の誕生。

Posted byブクログ