わたしたちの心 の商品レビュー
1890年作。モーパッサンの遺作だという。 吉田精一が戦後の永井荷風の短編について、「全くモーパッサンの骨法を以て終戦後の世相を描いたもの」と評したことを知り、モーパッサンなんて三十数年前、高校時代に新潮文庫のを(古本含めて)数冊読んだきりで、どんな感じだったかな? と思い、...
1890年作。モーパッサンの遺作だという。 吉田精一が戦後の永井荷風の短編について、「全くモーパッサンの骨法を以て終戦後の世相を描いたもの」と評したことを知り、モーパッサンなんて三十数年前、高校時代に新潮文庫のを(古本含めて)数冊読んだきりで、どんな感じだったかな? と思い、近年邦訳の出たこの長編を買ってみたのである。しかし吉田精一の言っていたのはきっとモーパッサンの短編のことなので、素直に新潮文庫の短編集を読み返せばよかったのだろう。 しかし、本書はとても面白かった。パリの社交界における若い男女の恋愛ゲームを描いて、なかなかに深みのある心理描写が充実しており、心理小説として優れている。 読んでみて、モーパッサンにはこんなに風景描写があったっけ? と思うくらい、情景描写が丁寧に展開されている。短編ではそんなに風景について長々とは書かないだろうから、これは長編での特徴かもしれない。 恋愛ストーリーとしては、この矛盾状態はこのあとどうなるの? と気になるような終わり方で、幸せなハッピーエンドではない。いかにもよじれてしまった男性の恋愛心理を浮き彫りにしているあたりが、モーパッサンっぽいのかもしれない。 モーパッサンの短編集なども読み返してみたい。
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笠間直穂子(翻訳):國學院大學外国語文化学科准教授。 ※國學院大學図書館 https://opac.kokugakuin.ac.jp/webopac/BB01673953
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恋愛をゲームのように捉える女に失望、敗北し、街を去る一人の男。。。体裁はそうだが、作者の意図としては、残酷で愚かで不感症で不幸で哀れな女、というディスり。紙ヤスリのようにザリザリくるのよ。ある日の逢引で女は言う。寒いし体調が心配なので今日はもう帰らせて。男は悟る。いーや、こいつは...
恋愛をゲームのように捉える女に失望、敗北し、街を去る一人の男。。。体裁はそうだが、作者の意図としては、残酷で愚かで不感症で不幸で哀れな女、というディスり。紙ヤスリのようにザリザリくるのよ。ある日の逢引で女は言う。寒いし体調が心配なので今日はもう帰らせて。男は悟る。いーや、こいつは見せびらかしたいもの、ドレスや虚栄などのためなら、どんな寒空でも天気でもしゃしゃってくる奴だ、俺の価値など最初からないんだ、と自分の愚かさに気づく。愚かさに気づく賢さ。この人は助かったのだ。
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原書名:NOTRE CŒUR 著者:ギ・ド・モーパッサン(Maupassant, Guy de, 1850-1893、フランス、小説家) 訳者:笠間直穂子(フランス文学)
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