大江健三郎とその時代 の商品レビュー
気鋭の文学研究者による大江健三郎の評伝である。一見、大江の評伝などは既に類書だらけではないか、という疑問を持ったが、実は2000年以降、大江自身が「レイト・ワークス」と銘打った数々の作品も含めて一気通貫でまとめあげた評伝はそこまでないのだという。確かに大江の評伝として、そもそも「...
気鋭の文学研究者による大江健三郎の評伝である。一見、大江の評伝などは既に類書だらけではないか、という疑問を持ったが、実は2000年以降、大江自身が「レイト・ワークス」と銘打った数々の作品も含めて一気通貫でまとめあげた評伝はそこまでないのだという。確かに大江の評伝として、そもそも「レイト・ワークス」にまで踏み込んだものとなるとかなり限定されしまうのだろう。 本書では大江の文学を「共同体」と「超越性」という2つの概念を軸にしながら、どのように戦後民主主義社会で彼が自作の小説世界を深化させてきたかということがテーマになっている。特に前者のキーワードの「共同体」というのは、確かに大江の様々な作品を振り返ったときに共通的に描かれているものであるということに気付く。私自身が大江の作品から一つ選ぶとしたら初期の『芽むしり子撃ち』であるが、あの閉鎖的なコミューンの持つグロテスクさは読んで十数年が経つ今も生々しい読後感を保っている。
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