銀の匙 の商品レビュー
子供の頃の記憶って、案外何気ないことほど覚えてたりする。でもいくら記憶はあっても、それをこの本のようにあの頃のみずみずしさのまま物語として伝えるのは難しいと思う。 おぶられたときの背中の温かさ、その背中から下ろされたときの不安、友達と別れる時に、寂しいのに意地を張ってしまうことも...
子供の頃の記憶って、案外何気ないことほど覚えてたりする。でもいくら記憶はあっても、それをこの本のようにあの頃のみずみずしさのまま物語として伝えるのは難しいと思う。 おぶられたときの背中の温かさ、その背中から下ろされたときの不安、友達と別れる時に、寂しいのに意地を張ってしまうことも… 人が皆持っている"原体験"みたいなものが宝物のように詰まってたな。 個人的には主人公とお蕙ちゃんのお別れのシーンが一番印象的だった。 幼稚園の頃に引っ越しちゃった友達、どうしてるかな。主人公と一緒にあの頃の気持ちを追体験した気分でした。
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積読してたけど読んでみたらいけた一冊。読んでみると繊細な表現とか少年の純朴さとかピュアが盛りだくさん。主人公はちょっとした女性願望があったりするのかなぁ?
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- ネタバレ
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そもそもこの小説に興味を持ったのは、ある私立難関校で教材として使用されており、3年間で1冊を読むという名物授業があるというのを知ったからだった。 3年間で読むような本とはどんなものなのだろうという興味があった。 購入したのはもうはるか昔のことで、それからまったく読む気にならず、ずっと積読状態だったが、ふと読んでみようという気が起こり購入から約10年経ってやっと手に取った。 なお、私が読んだのは本当は角川文庫から出ているものなのだが、検索したところ電子書籍版しかヒットしなかったので、仕方なくこちらに感想を書く。 何せ大正時代に書かれたものであるから、言葉も今とは異なっており、非常に読みづらいというのが第一印象であった。 また、著者の好みなのか漢字を用いず、「私の書斎のいろいろながらくたものなどいれた本箱の~」(冒頭)などとひらがなで書いてあるのも、どこで単語が切れるのかわかりにくい。 190ページほどの短い小説であるが、読み終わるのに1日半ほどかかった。 特に起伏もなく、淡々と日常が描かれており、起承転結のある小説というより日記やエッセイに近いかもしれない。 四季や時節の行事について触れられていることが多いので、枕草子を思い出した(枕草子を全編読んだわけではないので、あくまでイメージです)。 そんなわけで描写や言葉遣いに興味がある人以外にはつまらない内容ではないかと思う。ただ、時々はっとするような表現が出てくることがあり、そういった部分については夏目漱石の「きれいだ、描写が細く、独創がある」という称賛もわかる気がする。 そういった表現の中で特筆すべきは、お蕙ちゃんと月明かりに腕をかざして、蝋石のように見えるのを楽しんでいるシーンであるかと思う。 描写の表現も美しいし、窓辺で男女の子どもが二人、月明かりに肌を晒している姿が想像できる。 それから一番最後、訪ねてきた友人の姉と夕食をともにする際の、食べものの描写がとても良い。 全体的に描写は細かく丁寧であるが、もっとこういう食べ物に関する描写を読みたいと思った。 並んでいるものはご馳走ではないけれど、色、質感、味が容易に想像できる描写の素晴らしさで、とても魅力的に感じられた。 また、主人公とその兄との会話でも好きなところがある。 星を眺めていたところ、兄に何をしていたのか問われ、「お星さまをみてたんです」と答えたところ、兄に「ばか。星っていえ」とどなられてしまう。 この後の「あわれな人よ。なにかの縁あって地獄の道づれとなったこの人を にいさん と呼ぶように、子供の憧憬が空をめぐる冷たい石を お星さん と呼ぶのがそんなに悪いことであったろうか。」(p.140)という一文が美しく、とても良い。
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銀の匙は中勘助が書いた小説。中勘助の自伝的小説だそうだ。 明治43年に前編が執筆され後編は大正2年1913年に執筆された。 文章が美しく、当時をしらない自分にも郷愁を抱かせる描写がすばらしい。 東京の神田で生まれた主人公は、やがて緑豊かな小石川に引っ越す。 その土地でであった子...
銀の匙は中勘助が書いた小説。中勘助の自伝的小説だそうだ。 明治43年に前編が執筆され後編は大正2年1913年に執筆された。 文章が美しく、当時をしらない自分にも郷愁を抱かせる描写がすばらしい。 東京の神田で生まれた主人公は、やがて緑豊かな小石川に引っ越す。 その土地でであった子どもたちとの交流や、自然描写、淡い恋心などが綴られていく。 病弱だった主人公が、世界を見る視点は、生き生きとしていて驚きや恐怖に満ちている。 小学校に上がってしばらくすると、主人公は勉強に追いつかず、苦労して遅れを取り戻す。 体が大きくなり、ガキ大将となる。 やがて近所に越してきたおけいちゃんという女の子と親しくなり、一緒に日々を過ごす。同級生からのやっかみや、ライバルの出現などもあるが、おけいちゃんは最後は主人公のもとに戻ってくる。 しかしおけいちゃんは父親が亡くなり、母親の郷里に戻ることになる。 おけいちゃんが暇乞いをしにきたとき、主人公は部屋にこもって挨拶をしない。このひねくれた気持ちは自分にもよくわかった。 後半は、男らしさを求める兄とのやりとりや、戦争で盛り上がる同級生や学校の先生への反発、ひとり休暇をすごしにいった静養地での美しい女性との出会いなどが語られる。 この女性とは少ない交流の中で主人公に強烈な印象を与えたらしく、これ以上ない美しさをもって描写される。そして、彼女が京都に戻る暇乞いをしにきたとき、主人公はまたも天の邪鬼になり、聞こえなかったふりをする。 彼は恋をした女性の暇乞いには応えないのだ。 それは、おそらくは暇乞いを受けてしまうとその別れを認めることになるからではないだろうか。 美しいものを丁寧な言葉で表現する。それを書き連ねたことで美しい小説が完成した。
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