レダの靴を履いて の商品レビュー
新しい時代の新しい短歌を作ろうとした塚本邦雄の解説付きの歌集です。 著者の尾崎まゆみさんは塚本邦雄の直接のお弟子さんだったそうです。 解説はこれ以上ない程にやさしく読みやすく書かれていますが、読んでわかったものとこれだけやさしく書かれていても、わからないものもまだありました。 ...
新しい時代の新しい短歌を作ろうとした塚本邦雄の解説付きの歌集です。 著者の尾崎まゆみさんは塚本邦雄の直接のお弟子さんだったそうです。 解説はこれ以上ない程にやさしく読みやすく書かれていますが、読んでわかったものとこれだけやさしく書かれていても、わからないものもまだありました。 どうしてその光景がいいのかが理解できないのです。 歌とはこのようなことも詠むのかかと色々と物知りになった気がしました。 歌からまた別の歌へと広がっていく構成は楽しかったです。 塚本邦雄を初めて読まれる方にはお薦めの一冊です。 以下、旧字体で書かれているものは変換できないので新字体に変えています。 <ゆきたくて誰もゆけない夏の野のソーダ・ファウンテンにあるレダの靴>『水装物語』寄港地 「ここ」ではない「何処か」へのあこがれは、人の心を揺さぶる最強のもの。「ゆきたくて誰もゆけない」という魅力的なフレーズに出会って私は、立ち入らないでおこうと思っていた短歌への扉を、開いてしまいました。 甘酢っぱい感傷が、心のやわらかな部分を揺さぶる言葉の続きには、なつかしいけれど少し寂しい夏休みの思い出につながるソーダ・ファウンテン(ソーダなどを売る喫茶店)。たとえば飲みかけのレモンスカッシュを残して連れ去られてしまったレダの靴が、片方。 靴は遠くへ行くために履くものなので、恋人に贈ってはいけないらしいのですが、「レダ」はギリシャ神話の登場人物。白鳥にされて、白鳥に変身していたゼウスに連れ去られ、白鳥のまま卵を生み、卵からヘレネとディオスクロイ兄弟が生まれ、さらにヘレネが原因で…と話は続きます。 「レダ」という神話の登場人物を詠みこむことによって、魅力的な物語への通路が開かれ、誰もいない野原に迷路の入り口が見えてきて、一首の世界にも奥行きが生まれてくるのですが、この歌の最大の魅力は、美しい空白。「燦然と輝く絢爛たる不在」と後年の塚本邦雄なら解説したに違いない空白が、無垢のまま転がっている感じが、心の奥に大切にしまっている「ゆきたくて」も「ゆけなかった」輝かしい場所への切ない思いを揺さぶって、いつまでも色褪せないところにあるような気がします。 だからでしょう「レダの靴」は、夏になるといつも甦り、思い出すたびにその瑞々しさに驚いてしまう。とっておきの歌であり続けています。 (後略) 以下読んで、私が意味がわかり且つ、好きだと思った歌です。 <昆虫は日日にことばや文字を知り辞書から花の名をつづりだす>『水葬物語』寄港地 <煤、雪にまじりて降れりわれら生きわれらに似たる子をのこすのみ>『装飾楽句』黙示 <愛恋を絶つは水絶つより淡きくるしみかその夜より快晴>『星餐園』星想観 <五月来る硝子のかなた森閑と嬰児みなころされたるみどり>『緑色研究』緑色研究 <鉄鉢に百の桜桃ちらばれりあそびせむとやひとうまれけむ> <青年にして妖精の父 夏の天はくもりにみちつつ蒼し> <使途一切不明なれども一壜の酢をあがなえり妖精少女>
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