引越し先の隣人【独身母娘と通い子づくり】 の商品レビュー
オーソドックスな安定路線だが少々王道に過ぎるか
独身なのに母娘?と訝しむサブタイトルだが、単に未亡人とその娘である。タイトル付けに苦慮する編集者の姿が透けて見えるようだが、それだけ未亡人や母娘の作品が多くて今や単純に記せないのではと邪推するところである(とりわけ昨今は多過ぎるように思う)。 本作のヒロインは母娘の2人のみ...
独身なのに母娘?と訝しむサブタイトルだが、単に未亡人とその娘である。タイトル付けに苦慮する編集者の姿が透けて見えるようだが、それだけ未亡人や母娘の作品が多くて今や単純に記せないのではと邪推するところである(とりわけ昨今は多過ぎるように思う)。 本作のヒロインは母娘の2人のみ。主に前半の母と後半の娘とに大別できる。母のパートと娘のパートが割ときっちり分かれているので、欲を言えば多少入れ子になるような構成上の捻りも欲しかったところだが、展開やテイストも含めてオーソドックスに纏めた結果なのであろう。それぞれのヒロインをじっくり描く良さは感じられた。 隣り合うマンションとアパートで同じ階のため窓越しに隣の室内が見えるというシチュエーションは悪くない。そこで母娘の存在を知り、引っ越してきて以降はこっそり覗いていたものの41歳の母には知られており、それが咎められるでもなく、むしろ女として見てくれたことに喜びを覚えた母との蜜月の日々。それを20歳の娘には知られまいと振る舞うも、これまたしっかり知られており、苦労をかけた母の幸せを望むものの自身の気持ちも蔑ろにはできない娘からも誘われるという、基本的には上げ膳・据え膳な大学生の主人公である。 ただし、ヒロイン宅のマンションにせよ主人公宅のアパートにせよ、住居内には玄関先からキッチンに風呂場といったように様々な魅惑のシチュエーションが見出せるにも関わらず、官能描写のほぼ全てがベッドというのはいささか生真面目が過ぎる気もする。このままいけば……と思った矢先にわざわざベッドへ移動してしまうのは余りに勿体ない。そのまま淫らに交わる場面もほしかったところである。 また、本作に限ったことではないが、2018年から2019年にかけてのフランス書院文庫は強引なほどヒロインの懐妊に執着しているように感じられる。果たしてここまで徹底する必要があるのだろうかと疑問に思う。本作においても懐妊を暗に示唆する一文はあるが、3頁弱の終章でチラッと触れているに過ぎず、わざわざサブタイトルに「子づくり」と入れるほどではない。何でもかんでも懐妊ありきな最近の風潮には首を傾げると付記しておく。 つまり、本作の場合はタイトルに子づくり云々などと記して先回りするのではなく、本文初見で匂わせた方が却って効果的だと思うのである。
DSK
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