野生化するイノベーション の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
バズワードとなりがちな「イノベーション」に対し、学術的知見を用いながら、その特徴や現状をまとめた一冊。その不確実性故に、つかみどこのない議論となりがちなイノベーションであるが、本書ではイノベーションに以下のような定義を付与している。 「イノベーションとは、簡単に言えば、「経済的な価値を生み出す新しいモノゴトです。大切なのは、「経済的な価値」と「新しい」という二つの要素です。」(p.36) つまり、単に「新しい」だけではなく、そこに「経済的な価値」が生み出されてようやく、イノベーションと言えるのである。 上記の定義のもと、著者はイノベーションにおける特徴として、「移動する」「飼いならせない」「破壊する」の3つを挙げている。ざっくりまとめると、イノベーションとは「ヒトを介し、機会のある市場に自ら移動する特徴があり、故にマネジメントによって生み出されるようなものではない。また、便益のみをもたらすような代物でもなく、時に労働を代替することにより、失業などの問題を生み出す、破壊的な側面も持ち合わすものである」ということである。 個人的に本書がよかった点は、2つある。1つ目は、上記のような、感覚的には分かっているけれど言語化されていない点に対し、経営学、経済学、社会学などの知見を用いながら、各概念の説明を明快に行っている点である。そして2つ目は、議論の中で登場する過去の知見が、非常に広範かつ濃密であるという点である。以下、メモ書きとして再読したい部分を記しておく。 ・イノベーションに伴い、既存のモノの生産性が向上する「帆船効果」(p.46) ・EO(Entrepreneurship Orientation)の問題点。もともと個人が有していた性質なのか、イノベーションを起こすプロセスの中で育まれたそれなのか、判別がつかない(p.61) ・なぜ産業革命がイギリスで起きたのか(p.82) ・知識の反証可能性に関して(p.85) ・生産性のジレンマに関して(p.95) ・ポランニー「大転換」について(p.222)
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日本が単にアメリカのシステムをまねただけでは危険。また、アメリカではイノベーションの種となる基礎研究のコストを、実は国が負担してきたことから、基礎研究が枯渇しつつある日本の大学の現状に警鐘を鳴らす。
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イノベーションの専門家による、イノベーションについて述べた本。多くのトピックスをもとに論理を組み立てているが、本の多くの部分が、他の研究者の発表内容やデータで占められており、オリジナルの意見を述べている箇所が少ない。導き出された意見も、政府による積極投資や人材の集中などコストを政...
イノベーションの専門家による、イノベーションについて述べた本。多くのトピックスをもとに論理を組み立てているが、本の多くの部分が、他の研究者の発表内容やデータで占められており、オリジナルの意見を述べている箇所が少ない。導き出された意見も、政府による積極投資や人材の集中などコストを政府が負うべきであるとか、正確な情報の共有等、わかりきった結論となってしまっており、あまり参考とならなかった。全体的に話の展開が幅広くバラバラで発散しているように感じられるので、もう少し学術的な論理性がほしいし、言いたいことをはっきり論理立てて説明してほしい。掲載されている情報も既知のことが多かった。やや期待はずれ。 「(紫陽花の花の色)土壌が酸性だと花の色が青色系になり、アルカリ性だと赤色系になり、根が吸い上げる水の量によってその度合いが変わる」p30 「(グレゴリー・クラーク)イギリスで産業革命が起きて蒸気機関が広まったことによって、325万頭の馬が失業した」p42 「(イノベーションによる恩恵と抵抗)恩恵は時間をかけて社会全体に広く薄く広がっていきます。そのために、どうしても、抵抗運動が先に現れます」p49 「ジョン・ケイが、後に「飛び杼」と呼ばれる手織機を発明し、布を織る生産性が一気に上がりました。布を織る生産性が上がると、布の材料である糸の提供が追いつかなくなりました。布を織る技術と糸を紡ぐ技術の生産性のバランスが崩れたのです。このことにより、紡糸の生産性を上げることがビジネス・チャンスになったのです。バランスが崩れているところがチャンスです」p53 「(ケインズ)アニマル・スピリッツがなくなり、自生的な楽観が挫け、数学的期待値以外にわれわれの頼るべきものがなくなれば、企業は衰え、死滅する」p64 「アメリカではイノベーションによって破壊され、生産性が低くなってしまったビジネスの整理をしやすくすることによって、企業がこのコストを負担しなくても良いような社会を作ってきたのです。その分、国民が社会的なコストを負担してきたのです。その反対に、日本では企業がこの社会的なコストをかなり負担しているわけです」p204 「(日本における所得格差拡大)日本では、ピケティが示したような高所得者への富の集中が起こったのではなく、むしろ低所得者層のさらなる低所得化が進行していったのです」p213
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