日本における書籍蒐蔵の歴史 の商品レビュー

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2022/09/29

https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000078480

Posted byブクログ

2019/11/09

・川瀬一馬「日本における書籍蒐集の歴史」(吉川弘文館)を読んだ。書誌学の初歩を知りたいと思つたことがある。そこで書誌学のテキストを読まうとしてと選んだのが、たぶん、川瀬一馬であつた。当時は今ほど書誌学のテキストは多くなかつたから、大家の方が良いかと勝手に決めて川瀬を選んだ。長沢規...

・川瀬一馬「日本における書籍蒐集の歴史」(吉川弘文館)を読んだ。書誌学の初歩を知りたいと思つたことがある。そこで書誌学のテキストを読まうとしてと選んだのが、たぶん、川瀬一馬であつた。当時は今ほど書誌学のテキストは多くなかつたから、大家の方が良いかと勝手に決めて川瀬を選んだ。長沢規矩也であつたかもしれない。その差がどのくらゐあるのか知らない。私には関係ない。どちらも書誌学の大家である。長沢の方が少し年長であるらしく、「兄」とつけてゐるところがあつた。考へてみれば、長沢の漢和辞典は見たことがあつたので中国文学の人らしいと知れる。川瀬は中世あたりを専門にしてゐたらしく、五山版や古辞書が研究対象であつたらしい。何しろ昔の人すぎて、 といふ言ひ方は失礼であらうが、どうしても漱石や鴎外よりは年下の人ぐらゐにしか思へない。実際そんな人たちも出てこないわけではない。内容が内容だから文人はほとんど無縁だが、その代はり古本屋や古書収集家はたくさん出てくる。本書は、もちろん、さういふ人達、いやさういふ人達が好きな、そして研究してゐる人の本である。 ・時代がよく分かるのは付録の3としてある「安田文庫購入西荘善本評価書目(文行堂横尾勇之助手筆)」(227頁)である。この文庫は川瀬がかなり深く関はつたもので、後半の第二部最初の一章に「旧安田文庫のことなど」(128頁)といふのがある。安田文庫概説である。この文庫は戦争で焼失した。安田財閥も戦後に解体されてなくなつた。「旧」の付される所以である。そんな文庫の購入記録である。今では見ることもできない本である。ただ、購入記録ゆゑにその購入した金額が分かる。巻頭の2種35冊は書いてない。次の勅版職原抄と勅版神代巻の合計3冊は千円であつたらしい。下に1,000といふ数字がある。勅版といふのはその名の通り「勅」、つまり天皇の命によつて出版されたといふもので、慶長勅版神代巻等があるとか。これは慶長勅版であらうか。古活字版のやうだからその価値を私は知らない。1,000円ぐらゐならば安いのであらうと思ふ。ただ、いくら高くても値段がつくぐらゐであるから、全く出ない本ではなかつたのであらう。次のは駿河版とある。これは家康が晩年に駿河で出した銅活字本らしい。その代表が「大蔵一覧集」であるらしいが、これがやはり1, 000円、これも高い。次の「三鏡活字」には「鈴屋旧蔵印アリ」とあつて15冊で500円である。本居宣長旧蔵で値が上つたのであらうと思ふのだが、これがないとどのくらゐなのであらうかと思つてみたりする。以下、五山版が続いて……といふわけで、金にあかして買ひ集めたであらうことが分かる。何しろ安田財閥の二代目である。金に糸目を付けたりなどはしなかつたであらう。そんなことがよく分かる目録である。これは安田文庫のほんの一部でしかない。こんなのがほとんど数知れずあつたと言つて良い。研究者ならば当然のこと、研究者でなくとも、少しだけでも和本のことが分かれば、この文庫を見たいと思ふに違ひない。ところが、これは戦災で焼けたらしい。残念である。しかし、今となつてはどうしやうもない。実は、このやうな戦災や震災で焼けた本は多かつたらしいと本書で知れる。関東大震災にしろ、米軍の空襲にしろ、災害は場所を選ばない。そこにあるものが被害を受ける。さうして、そこにあつた文庫が焼けた。それだけのことである。当時、和本は多くあつた。まだ江戸を引きずつてゐたからである。そんな時代の書誌学者はさぞかし幸せであつたと思ふ。私は、川瀬の学問業績とは無関係に、そんなことを考へながら本書を読んだ。

Posted byブクログ