日本の人事システム の商品レビュー
本書は、研究・学術書。「日本型人事システムの変化」を神戸大学と能率協会が協働研究した結果をまとめたもの。 「日本型人事システム」は、日本の「高度成長(1960-1974年)」に原型が作られ、「安定成長期(1975-1996年)」に全面的展開を遂げた日本企業の正社員に特徴的な人事管...
本書は、研究・学術書。「日本型人事システムの変化」を神戸大学と能率協会が協働研究した結果をまとめたもの。 「日本型人事システム」は、日本の「高度成長(1960-1974年)」に原型が作られ、「安定成長期(1975-1996年)」に全面的展開を遂げた日本企業の正社員に特徴的な人事管理、と、本書中に定義がなされている。 その変節点は、1997-1998年頃で、バブル崩壊後の平成雇用不況期、ちょうど、山一や拓銀や長銀が破綻した頃であるとしている。それ以降、非正規労働者が増え、処遇が成果主義的に変わり、また、日本企業の人事制度の根幹であった職能資格制度のの見直しも始まったとしている。 実は日本に先立って、アメリカでも人事システムが変革されている。それは、1980年代から1990年代にかけてのことである。ちょうど、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と日本企業の経営が賞賛されていた時期、それの裏側で、米国企業は日本企業に競争で敗れ、米国国内の雇用が不安定になっていた時期である。意外に思われるかもしれないが、実は1970年代頃までの米国企業は、日本企業のように長期的安定的な雇用を慣行としていた。しかし、そういった余裕がなくなり、リストラ・ダウンサイジング・レイオフが行われるようになり、雇用慣行がこの時に変わったのである。その後、アメリカの景況は回復したが、雇用は増えず「雇用なき経済再生」等と呼ばれたりもした。「エンプロイアビリティ」という言葉が使われるようになったのも、この頃であり、企業は雇用保障は出来ないが、エンプロイアビリティ(雇われ続ける能力)を磨くことは保障するという雇用関係となったのである。雇用保障型の雇用契約を、オールド・ディール、エンプロイアビリティ保障型の雇用契約をニュー・ディールと呼ぶ。一言で言えば、アメリカの雇用は市場指向型のものとなったのである。 一方、1997-1998年頃を変節点とする日本型人事システムは、同じく市場指向型の方向に向かいはしたが、アメリカのようなところまでは行っておらず、なお、日本型人事システムの特徴である、組織志向型の考え方と仕組みを残したハイブリッド型となっている、というのが本書の主張である。 ここ何年かかの日本の労働政策は、明らかにアメリカ型を指向しているように、私には思える。どういう理路なのかは分からないが、長期間に渡る日本経済の低迷の一因は、日本型人事システムが温存されていることであり、それを「変革」しなければならない、と「骨太の方針」などには書かれている。転職が当たり前の社会にならなければならない、自分のキャリアは自分でつくる、転職が当たり前になるためには市場のサラリー水準が透明度の高いものでなけらばならず、そのためにはジョブ型雇用が必要だ、等の主張がなされる。 本当かな、と私等は思う。「エンプロイアビリティ」という考え方が大事で、個人が自分のキャリアのことを大事に考え、組織はキャリア開発を支援すべき、というところまでは分かる。しかし、何故、転職を促進しなければならないのか、何故、そのためにジョブ型雇用が必要なのか、等はよく分からない。何となく、1997-1998年頃の「非正規雇用」の増大、要するに新自由主義的な考えが強い、いやな感じはする。
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