アナーキストの銀行家 フェルナンド・ペソア短編集 の商品レビュー
『不穏の書』を読んでペソアに興味を持ち、この本を手に取った。けれども、そこには『不穏の書』にあったような、風景と溶け合った人生についての思索はなく、ただやや鈍いポー的な大衆小説があるだけだった。 タイトルになっている「アナーキストの銀行家」はポーから遠く離れた形式で書かれている...
『不穏の書』を読んでペソアに興味を持ち、この本を手に取った。けれども、そこには『不穏の書』にあったような、風景と溶け合った人生についての思索はなく、ただやや鈍いポー的な大衆小説があるだけだった。 タイトルになっている「アナーキストの銀行家」はポーから遠く離れた形式で書かれているけれども、内容といったら銀行家が正しいアナーキストのあり方についてひたすら話し続けるだけのものだ。 銀行家が葉巻を喫うだけの描写しか地の文には表れないのに、わざわざ小説にする必要は無い。まるで悪い見本だ。これならペソアお得意の“異名”を使って思索をつらつらと書かせれば良かったのだ。 ただ5ページの短篇「忘却の街道」はとても良かった。といってもこれは散文詩のようなもので、だからこそ良かったのかもしれない。 ペソアは優れた詩人であり、優れた作家だ。けれども優れた小説家とはどうしても言い難い。
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