大江健三郎全小説(9) の商品レビュー

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2024/02/13

「人生の親戚」を読みました。 知的障害のある長男ムーさんと、事故で半身不随となった次男道夫君を、自殺で亡くしてしまった女性まり恵さんの話。 到底了解することの出来ないような悲惨な現実と真っ向から組み合い、最期にVサインをした彼女の姿が印象に残った。 彼女の生涯を「了解可能な」物語...

「人生の親戚」を読みました。 知的障害のある長男ムーさんと、事故で半身不随となった次男道夫君を、自殺で亡くしてしまった女性まり恵さんの話。 到底了解することの出来ないような悲惨な現実と真っ向から組み合い、最期にVサインをした彼女の姿が印象に残った。 彼女の生涯を「了解可能な」物語として書いてしまった著者の葛藤も綴られており、他人の人生を題材に小説を書く人としての誠実さを感じた。 仕事柄だろうか、人に寄り添うってどういうことだろうかと最近考える。 人が抱える痛みや苦しみは極めて個別のものであり、それを理解し寄り添うなど到底できないと思うこともある。しかし、それぞれがそれぞれの人生の問題に直面し、苦しみを背負って生きていると知ったとき、人は「自分は一人ぼっちで苦しんでいるではない」といった、ある種の頼もしさを覚えるのではないだろうか。あなたは私とは全く違う苦しみを抱えているけれども、それに絶望したり、あるいは立ち向かったりして、なんとか生きていこうとしている「人生の親戚」であると分かった時、初めて人に寄り添うことが可能になる。お互いの傷は理解できなくても、傍にいることはできる。 まり恵さんはまり恵さんで、彼女の個別の苦しみを抱えて生きている。それは決して私にとって了解可能なものではない。しかしメキシコの女たちが彼女の懸命に働く姿を見て「人生の親戚」と呟いたように、私もこれから人生の苦難に立ち向かった時、彼女のことを「人生の親戚」として少なからず頼もしく感じるだろう。

Posted byブクログ