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物質と記憶 の商品レビュー

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2023/11/24

現在のところ最新の翻訳で、最良のものだと思う。昔のベルクソンの翻訳は主に仏文学者がやっていたことが多く、そのせいか良質の仏文学を読んでいるような感覚があったのだが、最近の(主に哲学者による)翻訳ではその香りがなくさみしく感じていたところだった。ところがこの本にはその感覚があり、や...

現在のところ最新の翻訳で、最良のものだと思う。昔のベルクソンの翻訳は主に仏文学者がやっていたことが多く、そのせいか良質の仏文学を読んでいるような感覚があったのだが、最近の(主に哲学者による)翻訳ではその香りがなくさみしく感じていたところだった。ところがこの本にはその感覚があり、やはりそれはもともとベルクソンが持っているものだったのだと改めて思った。 解説も内容の的確な要約など適切。ちなみに、p.377に「最近の「純粋想起」という翻訳は(略)致命的」とあるが、それはちくま学芸文庫の合田正人訳と白水社の新訳全集の竹内信夫訳の二つを指している。 最近のものとしては岩波文庫の熊野純彦訳もあるが、こちらは「純粋記憶」と訳されている。もともと「記憶」という言葉に対する原語として「メモワール」と「スヴニール」の二つがあることが問題で、それを「想起」と訳すのはどうか、という話であり、熊野訳ではルビをつけて分けておくことで対処している。 この学術文庫版では「メモワール」について、文脈に応じて「記憶力」と訳すような工夫をして対応している。 ドゥルーズやメルロ=ポンティ(特に『シネマ』や『知覚の現象学』)など、この本を読んでいないとまともに理解できない(少なくともフランスの)哲学書は多い。(今回読んでみて”これを念頭において言ってたのね”というところがけっこうある)この学術文庫版は入手しやすいし、訳にも勢いがあって読みやすく、注や解説も充実しているので、とっかかりとしてとてもよいと思った。

Posted byブクログ