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破れた繭 の商品レビュー

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2023/11/12

『耳の物語』とは、昔の香水瓶の匂いから過去をとりだしたボードレールに触発されて、自分は耳の記憶を頼りに過去をとりだしてみようと思いあたり、自伝を書き始めたもの。『破れた繭』『夜と陽炎』の全二冊。本作は、幼少期から大学時代まで。 序盤は”耳”にこだわるあまり、主語の無い、比喩を多...

『耳の物語』とは、昔の香水瓶の匂いから過去をとりだしたボードレールに触発されて、自分は耳の記憶を頼りに過去をとりだしてみようと思いあたり、自伝を書き始めたもの。『破れた繭』『夜と陽炎』の全二冊。本作は、幼少期から大学時代まで。 序盤は”耳”にこだわるあまり、主語の無い、比喩を多用したダラダラとした文章が続きます。正直言って、あまりに退屈極まり、読むのをやめようかと思いました。中盤以降は、パン焼き見習工として働き始めたあたりから面白くなっていき、終盤の谷沢永一や向井敏との出会いから、ラストでの”女”との間のアレコレまで、とても面白く読むことができました。 結局、中盤以降の”耳”にこだわらない文章の方が面白くなっていったのは、何とも…おそらく、働くようになってからの記憶の方が、終戦後の食糧難の記憶と相まって、確かなためかもしれない。 なお、作中で語られる本や映画の話しが興味深かった。以下、作品覚え書き。 小説『西部戦線異状なし』『十八史略』『モンテクリスト伯』梶井基次郎『檸檬』中島敦『文字禍』『悟浄出世』(傑作と評している。自分も賛同)『カルメン』『ゴッサムの賢人』 作家の佐藤春夫、魯迅、サルトル、チャールズ・ラムの随想集。他に蘇東坡、ルイ・アラゴン、アンリ・ミショー、ジャック・プレヴェールなどの詩人。 映画『パリ祭』『モダン・タイムス』『スミス都へ行く』『大いなる幻影』『哀愁』シャーロック・ホームズなど。俳優のイングリッド・バーグマン、ゲイリー・クーパー。 ところで、タイトル頁をめくった直後のエピグラフに、ジョージ・オーウェル『一九八四年』から、「最高の書物とは、読者にわかりきっていることを語ったものだと、彼は悟ったのである。」の言葉が引用されています。 ちなみに、ハヤカワ文庫では、「最上の書物とは、読者のすでに知っていることを教えてくれるものなのだ、と彼は悟った。」となっています。微妙なニュアンスの違いですが、本書の内容のように「わかっていてもどうにもならないこと」が書かれている『耳の物語』には、岩波文庫のエピグラフに使われている訳文の方が、言い得て妙だと思いました。

Posted byブクログ