パフォーマンス心理学入門 の商品レビュー
「〇〇××学」(たとえば,社会心理学)の「〇〇」は研究対象,「××学」はその学問分野に特徴づけられた方法を主に表しているとされる(伊藤, 2016)。たとえば社会心理学であれば,「社会」を心理学的手法で研究する分野ということである。それに照らせば,パフォーマンス心理学は「パフ...
「〇〇××学」(たとえば,社会心理学)の「〇〇」は研究対象,「××学」はその学問分野に特徴づけられた方法を主に表しているとされる(伊藤, 2016)。たとえば社会心理学であれば,「社会」を心理学的手法で研究する分野ということである。それに照らせば,パフォーマンス心理学は「パフォーマンス」について心理学的手法(実験,調査,観察)を用いて研究する分野ということになる。 しかし,そのように認識してしまうとパフォーマンス心理学を捉え損なってしまう。なぜか。第一に,パフォーマンス心理学においては人間存在のあり方をプロセスで捉える。メインストリームの心理学が置く仮定(平均的人間像とそこからの偏差,静的人間像)を批判し,自分とは異なる人物に”なる”人間のプロセスに着目する(動的人間像)。第二に,パフォーマンス心理学においては研究対象と研究主体が切り離せない。自然科学のように客観的研究対象が存在するのではなく,いわゆる研究対象と呼ばれる人々との共同によって研究が進んでいく。要するに,パフォーマンスという対象があるわけでも,心理学的手法を用いているわけでもない。対象でもあれば研究手法でもあるような”パフォーマンス心理”についての学問=パフォーマンス心理学なのである。 なので,パフォーマンスを成果や達成と捉え,いわゆるパフォーマンスをあげるための心理学と思って本書を読むと期待外れに終わる。「パフォーマンスは成果主義とは無縁である」(p.3)。パフォーマンスとは「自分とは異なる人物を演じたり,他の人物の振りをすること」(p.3)である。そのようなパフォーマンスを通して,人間の発達=より良い生の探究を試そうとする学問である。そのため必然的に研究は”泥臭く”ならざるを得ない。地べたを這う研究とも言える。本書の第二部で紹介される”足を使った”研究や,草の根の活動としてパフォーマンス心理学が持続してきたことがそれを裏付けている。 パフォーマンス心理学は心理学の可能性をひらく。否,心理学だけでない。人間の可能性もひらく。人間の過去を見る心理学から未来を創造する心理学へ。原因を追求する心理学から発達可能性を探索する心理学へ。新しいスタイルを手に入れたとき,心理学はこれまで以上に人間をベタリングする。スニーカーを汚すか,革靴を履き続けたいか。どちらの道を選ぶか次第である。
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