ミネルヴァの梟は飛び立ちたい ~東雲理子は哲学で謎を解き明かす~ の商品レビュー
2020年代になってミステリー小説を読むようになったからか、哲学を扱う小説はないか検索したところ本書がヒットしたので購入。著者が大学で教鞭を執る哲学研究者であり、ヘーゲルの有名な言葉がタイトルに使われていることにも興味を持った。 本書は、大学院で哲学を学ぶ女子学生が主人公で、学...
2020年代になってミステリー小説を読むようになったからか、哲学を扱う小説はないか検索したところ本書がヒットしたので購入。著者が大学で教鞭を執る哲学研究者であり、ヘーゲルの有名な言葉がタイトルに使われていることにも興味を持った。 本書は、大学院で哲学を学ぶ女子学生が主人公で、学内を含めた日常生活のなかで起こった出来事について指導教授とともに哲学的に考察していく内容となっている。 著者が哲学的考察アプローチに小説という文体を採用したのは、哲学が日常の些細な出来事に対しても理性を働かせて考察し、対話によって思考を深めていくものであることから、説明的な哲学入門書よりも読者が哲学を理解しやすいのではないかと考えたからかもしれない。 また、読者の理解を助けるために、章末に2ページ程度の補講があるのも好感が持てる。 読者に親しみを抱かせる目的で女子学生を主人公とする手法は、多くのジャンルの入門書に採用されているが、本書も恐らくそれに倣ったのだと思われる。 ただ、キャラクター設定としては読みやすさを感じるものの、主人公と同世代の友人や同級生などの若者同士の会話部分も含めて文体が少々硬めなので、読んでいて多少違和感を覚えてしまった。 副題についても、「哲学で謎を解き明かす」とされていることで、謎解きミステリー的な展開を期待してしまうが、謎というよりは日常的に感じるちょっとした疑問を哲学的に解釈する展開に終始するため、あまり期待値が高すぎると肩透かしを食らうかもしれない。 ただ、哲学研究者である著者が、本作をカクヨムに連載小説として投稿し、コンテストで優秀賞を受賞したことから書籍化デビューを果たしたという功績は、プロの作家でなくても、また出版社や編集者とつながりがなくても、自分の専門性を活かして書籍化が可能だという好事例であると思えた一冊であった。
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