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被差別部落の伝承と生活 の商品レビュー

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2020/08/26

高齢者からの聞き取りなので、その内容が全て事実とは即断できないが、著者もその可能性を自覚しながら書いている。今となっては、貴重な記録であると思う。    なお、地名や人名などが、かなり実名で記載されているので、留意する必要がある。

Posted byブクログ

2019/07/29

・柴田道子「被差別部落の伝承と生活 信州の部落・古老の聞き書き」(ちくま文庫)は 「最初の出版後四十七年、著者没後四十四年にして筑摩書房から文庫本として再び世に出」(横田雄一「解説」475頁)た書である。この横田氏は著者の夫であつた。と同時に、佐山再審弁護団の一員であつた人である...

・柴田道子「被差別部落の伝承と生活 信州の部落・古老の聞き書き」(ちくま文庫)は 「最初の出版後四十七年、著者没後四十四年にして筑摩書房から文庫本として再び世に出」(横田雄一「解説」475頁)た書である。この横田氏は著者の夫であつた。と同時に、佐山再審弁護団の一員であつた人である。当然、著者に関して詳しい。柴田は児童文学者であつた。「子どもに寄り添うという日常の習性は、古老からに聞き取りのさいにも、語り手に寄り添って受け止め、微妙な感情の動きもナイーブに移入するという仕方で、活かされた」(同前476頁)とある。性格は、「感じやすく、愛情が深く、人に優しい心の持ち主で」(同前)あつた。また、「男社会のなかの女性として蒙らざるを得なかった自らの被差別体験に基づく感情移入も加わり、ごく自然に差別事象とそこからの解放という視点から人々の生き様に共感し、敬意を払いつつ文章化した」(同前)とある。しかも「死の直前まで朝日新聞社から依頼された佐山事件の原稿の執筆に打ち込んでい」(同前)たといふ。ここまで引用すれば本書の大方の内容と傾向は理解できよう。実に丁寧に、古老をはじめとした被差別部落の人々の声を拾つてゐる。それも1960年代の聞き書きであるらしい。「この書物は、主に戦前における伝承を中心としている」(「序」17頁)とあるが、古老は明治生まれが中心で、その話の中にはじいさんが江戸の生まれで云々の類の記述がいくつも見られる。 今となつては実に古い記録である。所謂被差別部落に限られたことではあつても、これは貴重である。本書が復刊されたのは実に喜ばしい。 ・本書の古老の聞き書きは被差別部落をまともに知らない人間には驚くべきことに満ちてゐる。現代の結婚や就職のことは伝へ聞いてはゐたがそれだけのこと、 自分には無関係と思つてゐた。いづれも現実的な大問題であるらしい。なぜかうなつたか、これが根本的な問題であらう。いつ被差別部落ができたのか。いつから差別されるやうになつたのか。これに対するきちんとした答は書かれてゐない。ただ、部落の成立に関しては書いてある。「第一は城下町におかれた部落である。(中略)城主は、皮革をはじめとする武具の製造や雑役労働を必要とし、城下の治安を守る力として部落を強制的に作った。第二は、神社仏閣に依拠する部落で、善光寺などがある。ここでの仕事は、寺や神社の庭師その他の雑役であった。第三は、川筋に置かれた部落である。(中略)河川筋の仕事は主に船頭であ る。第四は、街道筋の部落で、数の上では一番多い。」(同前10~11頁)街道筋の部落の仕事は死馬等の処理が中心であらう。それが皮革につながる。私の少ない知識によれば、被差別部落の人たちは皮革関連の仕事に従事してゐるとか。この第一と第四は正にそれに当たる。しかし、それだけが仕事でないことは本書を読めばよく分かる。小作農と雑役とで生計を立てるといふあたりが中心かもしれない。雑役は文字通りの雑役で、何でもできることはやつたらしい。さうでないと生活がなりたたなかつたらしい。だからこそ、「被差別部落の人びとは、自分たちの歴史を、マイナスとして受けとめてきた。(中略)みぐさい(カッコ 悪い)ものだ、せつない(はずかしい)ものだと思わされてきた」(同前11頁)。本書はマイナスではない部落史を古老から聞きださうとした書である。先の やうに部落成立には政策的な要素が大きく絡んでゐる。そこからは逃れられない。それを正面に見据ゑる時、著者が「感じやすく、愛情が深く、人に優しい心の持ち主で」あることが幸ひする。本文を読めば分かることである。

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