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銀の流通と中国・東南アジア の商品レビュー

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2021/04/11

本書は19世紀前半の中国・東アジア・東南アジアにおける銀の流通をめぐる2つの専門家会議での議論をもとに構成されたものである。まず豊岡康史氏によるややボリューミーな序論「アヘン戦争前夜の「不況」ー「道光不況」論争の背景」で全体の議論の背景などが俯瞰される。いきなり専門論文を並べても...

本書は19世紀前半の中国・東アジア・東南アジアにおける銀の流通をめぐる2つの専門家会議での議論をもとに構成されたものである。まず豊岡康史氏によるややボリューミーな序論「アヘン戦争前夜の「不況」ー「道光不況」論争の背景」で全体の議論の背景などが俯瞰される。いきなり専門論文を並べても門外漢にはそもそも何が問題とされているのかがわからないし、そうした論文集も多いのだが、本書はその点非常に丁寧であり、わかりやすい。 つづく第1章がアレハンドラ・イリゴイン氏による「道光年間の中国におけるトロイの木馬ーそして太平天国反乱期の銀とアヘンの流れに関する解釈」、岸本美緒氏の第2章「19世紀前半期における外国銀と中国国内経済」、第3章がリチャード・フォン・グラン氏の「19世紀中国における貨幣需要と銀供給」。と、ここまでが中国パートで18世紀末から19世紀前半における中国を中心にした銀の生産と流通のダイナミクスというグローバル経済史が描かれている。中国の国内経済構造についてはよくわからない部分も多く、隔靴掻痒の感が否めないが、脱・欧米中心史観の実証分析とはこういうことであろう。日本も本来ならば銀をめぐって世界経済と密接に結びつくはずだったのだろうが、幸か不幸かこの時期はちょうどその連環の外である。 第Ⅱ部は東南アジア全体の概観が大橋厚子氏の論文で、さらにベトナム経済史の研究から多賀良寛氏の論文が配置されている。ベトナムはまったく知らない世界。1830年代にすでに洋銀を模した銀貨が鋳造されていたとは驚きである(日本は1871年の貿易銀<のちの円銀>)。 日本においても1880年代の実質的銀本位制の時代を経て、90年代半ばには貨幣制度調査会における本位制論争があり、1897年の金本位制成立があったわけだが、グローバルな銀の流れのなかに位置付け直されねばならないだろう。

Posted byブクログ