極北クレイマー2008 の商品レビュー
題名に在る「極北」は、作中の北海道に在る架空の都市の名である。色々と「暗示的?」な内容が込められた、興味深い小説であると思った。本作も所謂「桜宮サーガ」の範囲ではある。少し知られた“関係者”が現れる、または存在が示唆されるという描写は在るが、寧ろ本作なりの作中人物達の物語に纏まっ...
題名に在る「極北」は、作中の北海道に在る架空の都市の名である。色々と「暗示的?」な内容が込められた、興味深い小説であると思った。本作も所謂「桜宮サーガ」の範囲ではある。少し知られた“関係者”が現れる、または存在が示唆されるという描写は在るが、寧ろ本作なりの作中人物達の物語に纏まっている感である。 本作は、極北市民病院にやって来た医師の今中が主要視点人物となっている。今中が不在な部分では視点人物が適宜切り替わる。実在した事件を参照にしたような出来事、実際の出来事を参照に少し戯画的に描写される様子等が折り重ねられて行くのだが、状況の中に身を投じた今中が少し踏み出そうとするような物語でもあるかもしれない。 外科医の今中は、外科医となって8年目で極北大学から極北市民病院に赴任することになった。医学部を擁する極北大学は極北市で起こったが、少し離れた雪見市に移った経過が在った。今中は、移った後に大学に入って医師になっている。 極北市は、遊園地、スキー場、ホテルと上手く行っていない観光施設、赤字のローカル鉄道路線を抱え、更に市民病院の経営状態も好くない情況で、これらは「赤字5つ星」とも呼ばれており、財政破綻の危惧が在るとされた。 極北市民病院に赴任した今中は外科部長を拝命したが、「非常勤」という待遇となっていた。色々とローカルルールのような、妙な様子に触れながら奮戦することになる。 今中はその赴任以前に極北市民病院で起こった出来事を聞き及んだ。難産で帝王切開となった際、妊婦と子どもが亡くなってしまったという事案が在ったという。この事案が「事故」という扱いになって行くのかもしれないということだった。 酷い財政難とされる街の病院での様々な人達の物語が在り、他方に妊婦と子どもが亡くなってしまったという事案の件が展開する。なかなかに興味深い。 本作の舞台になるのは、北海道の架空の街だ。北海道内に長く住んで居て一定の土地勘は在るのだが、そういう目線で観て、「極北市」や「雪見市」がどの辺りなのかが判り悪い。作中に「札幌」は出て来る。そして札幌と架空の街との間は車で1時間余りという距離となってはいる。 北海道内には、観光系の施設運営が巧く行かなかった、嘗て立地した企業が起こした大きな病院のようなモノを引継いだというようなこと、その他の様々な要因で財政破綻してしまったという自治体が実在する。本作の「極北市」はそこをモデルにしているというように語られる場合が在るが、自身は作品を読んでそういうようには余り感じなかった。 寧ろ、本作では少し突き放して観た場合に「無茶?」というような資金投下をして財政が行詰る、そういう中で何処となく行政が「私?」というような雰囲気も在り、必要とされるサービスの運営等に「支障?」という様子を、実在の自治体での取材内容を参考に、少し風刺的、戯画的に描き出した創作だと思った。そういう様子を見詰めることになる今中と、居合わせて出逢った様々な人達との物語が本作である。 或る意味で「桜宮サーガ」のシリーズ「らしい」という作品だと思う。個人的には、終盤で街を去った人達の「その後」が少し気になる面も在った。愉しい作品だ。
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財政破綻都市の市民病院の惨状を想像して書かれたらしいが、想像がノンフィクションになってしまったらしい。やる気のない病院職員や不潔な病棟はこんな病院には絶対お目にかかりたくないと思うが、似たような状態だったなんて信じられない。続編も読んだがまだ再建の真っ只中だったので、モデルにな...
財政破綻都市の市民病院の惨状を想像して書かれたらしいが、想像がノンフィクションになってしまったらしい。やる気のない病院職員や不潔な病棟はこんな病院には絶対お目にかかりたくないと思うが、似たような状態だったなんて信じられない。続編も読んだがまだ再建の真っ只中だったので、モデルになった市は実際どうなったんだろう。姫宮は今作ではドジっ娘封印?三枝部長が医者の鑑のような人物なだけに、なぜこの人が逮捕されなければならないのか…。医療崩壊は現在も着々と進行中なのだろうか。
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実在する地方都市を彷彿させるような内容。 最初からかなり粗悪な病院の状況が描かれ、そこに赴任した若き外科医:今中が病院の立て直しを図って行くのかと思いきや様々な思惑が入り乱れ最終的には主な病院スタッフが去ってしまう展開。 今中に特別な能力も劇的に環境を変える力もない普通の医師として書かれているのが興味深い。最後に登場した世良とどのように融合し、他の桜宮サーガの面々と関わっていくのか楽しみである
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桜宮サーガの原点 「世良シリーズ」から約20年後 財政破綻寸前の町、極北市 バブル期に市が力を注いだ 観覧車は、週末しか稼動せず スキー場は、大量の積雪により リフトが埋もれて、営業できず 極北大学病院は、隣町に誘致され 市の人口も流出するという そんな極北市に ポツンと取り残された 市民病院に派遣された、今中医師 極限まで削減された予算で 辛うじて運営されている市民病院は 不衛生で、古臭く スタッフのやる気も、全くない そんな中 数年前に、東京からやってきた 産婦人科医の三枝医師と 3年前に、地元に戻ってきた 並木看護師 この二人が、市民病院唯一の良心だった そんな市民病院に 更に、東京から派遣されてきた 皮膚科女医 本業は 厚生労働省大臣官房秘書課付医療過誤死関連中立第三者機関設置推進準備室室長補佐 なんとも長々しい肩書を持つ姫宮だが 赴任初日に、気難しい院内スタッフの 気持ちとやる気を掌握する 破綻寸前の、市民病院に 姫宮が派遣されてきた目的は 院内に 「医療事故調査委員会」を設置させる事だった 数年前に院内で起こった、出産事故 医師の懸命な処置にもかかわらず イレギュラーな症例の前に 母子共に死亡 病院側の説明に 一旦は納得した父親だが 医療ジャーナリストと名乗る 西園寺さやかの策略に まんまとハマってしまう 財政破綻目前の極北市で起こった 医療事故を引き金に 医療に介入して来る司法 のっぴきならない状況を打破するために 送り込まれてきたのは あの世良ちゃんだった… 医療好きには、堪らない 司法と医療のバトル 院内の、ミニマムな争いとか 未来の医療とか、格差とか 医療従事者の苦悩とかを描いた 作品も、もちろん大好物だけど もっと大きな枠組みを ダイナミックに描いてる 海堂尊作品は マジ、興奮させられる 医療技術の進歩により お産は、安全なものだと信じてやまない人々 最善を尽くしても 救えない命があることを理解している医師 医療に、司法が絡んでくることの危険性 既得権益と権利を主張する者 などなど 有象無象が蠢く中 姫宮の行動には ほっとさせられる 一見、ピントがズレてるように見える発言も しっかりと本質は捉えていて ズレてるが故に 意外とすんなり聞き入れられるという笑 恐るべき記憶力の、優秀な頭脳と天然 嫌味のない謙虚さが 重たいテーマの作品に 清涼剤的なアクセントとなってる #極北クレイマー #極北シリーズ #海堂尊 #桜宮サーガ #厚生労働省大臣官房秘書課付医療過誤死関連中立第三者機関設置推進準備室室長姫宮香織 #読書好き #ブクログ
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再読3回目。 面白かった。市民病院の破綻は少し前に相次いだ医療崩壊だけど、今でも変わらず問題はある。どんどん読めた。
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やっぱり、海堂尊の小説は面白い。 極北市が財政破綻し、市民病院も再建されることになる。 再建請負人が着任したところで、終わってしまって中途半端だなと思ったら、「極北ラプソディ」という続編があった。 今中医師は、バチスタシリーズの田口医師と似た感じ。非常勤、月収20万円ぐらいの薄給でなのに、よく働き、破綻した病院を見捨てずに残るところが偉い。破綻後は、今中が中心となって病院の再建にあたるのかと思ったら、外部から再建請負人が来ることに。 面白かったが、こういう終わり方をするのであれば、「極北ラプソディ」は続編ではなく、「極北クレイマー」の下巻にすればいいと思う。 姫宮がいい味を出していた。
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