となりの甘妻 の商品レビュー
報われない悲哀の末に訪れるほっこりな結末
結婚を約束して新築の一戸建てまで購入しながら彼女に逃げられた30歳の主人公。悲しみに暮れながらも新たな花嫁候補を見つけるべく街角の女性占い師に未来の女運を占ってもらうと「隣に現れる女を常に意識して」と告げられる。これまで意識もしてこなかった隣の女性を意識するようになった主人公が、...
結婚を約束して新築の一戸建てまで購入しながら彼女に逃げられた30歳の主人公。悲しみに暮れながらも新たな花嫁候補を見つけるべく街角の女性占い師に未来の女運を占ってもらうと「隣に現れる女を常に意識して」と告げられる。これまで意識もしてこなかった隣の女性を意識するようになった主人公が、これまでとは異なる行動を起こすことで花嫁探しは成就できるのか?というお話である。 帰りの最終電車で偶然隣り合わせた、病院の待合室で偶然隣り合わせた、高校時代に隣の席だった、職場で隣の席に異動してきた、隣に住んでいた、などなど様々なシチュエーションで「隣の女」が登場する。他所で思わぬ接点があったヒロインもいて、なかなか面白い流れにもなっている。しかし、タイトルからも推測できるように、出会うのは人妻ばかり。中には出会った後でその事実を知る場合もあって主人公の落胆は隠せず、次々に人妻を渡り歩くこととなる。それはそれでオイシイ出来事ではあるし、主人公にもその自覚はあるのだが、想いは果たせず、悩ましい日々を送ることになる。 欲求不満の人妻としながら単に、安易に積極的なのではなく、慎ましく過ごしている日常から主人公とのちょっとしたきっかけで情欲を垣間見せる非日常へと、その淫靡な変化を巧みに描いているのはさすがであり、第一印象とのギャップが官能面の底上げにも寄与している。人妻ならではの心の機微を探りながら巧みにアプローチしていく主人公であり、「いやよ」「ダメよ」と言いながら肉欲を昂らせ、遂には自ら求めてしまう人妻である。また、それでいながら溺れることもなく冷静で現実的な一面をも見せるところは、人妻という大人の女性による、ちょっとした火遊び(浮気)と夫を蔑ろにすること(不倫)との節度をギリギリで重んじているようでもある。 「隣の女を意識して」と告げた占い師は、同時に「いまはまだ、隣にはいないかもしれない」とも告げていた。しばらく待て、ということだが、その時が不意に訪れる。主人公を抜き身で彷徨う刀とすれば、巡り巡った果てに戻るところは推して知るべしといったところか。これを最後の最後にさらりと描いたニクい幕引きである。 それにしても、今更で恐縮でもあるが、文章が上手い。読みやすい。ストーリーや設定に描写といった以前に小説家の「イロハのイ」が当たり前のように押さえられた文章を読んだ心地の良さを感じた。
DSK
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