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小原古邨 花咲き鳥歌う紙上の楽園 の商品レビュー

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2019/06/24

小原古邨(1877-1945)は、明治から昭和初期にかけて活躍した絵師である。 海外では評価も高く、コレクターも多い。画家のクリムトも蒐集していたという。 ところが日本ではそれほど知られてこなかった。古邨の作品は、主に海外向けに制作・販売されていたためである。 近年、徐々に国内で...

小原古邨(1877-1945)は、明治から昭和初期にかけて活躍した絵師である。 海外では評価も高く、コレクターも多い。画家のクリムトも蒐集していたという。 ところが日本ではそれほど知られてこなかった。古邨の作品は、主に海外向けに制作・販売されていたためである。 近年、徐々に国内での注目が高まり、回顧展が開かれたり、メディアに取り上げられたりするようになってきた。 2019年には浮世絵美術館として知られる東京の太田記念美術館で展覧会が行われた。本書はその図録も兼ねている。 古邨の作品の多くは「花鳥版画」と呼ばれるものである。 題材は身近な鳥獣や草木、版型は短冊版や大短冊版といった細長いもの。 柔らかな色遣いで、牡丹にとまった燕、酸実と緋連雀、雨に打たれる五位鷺など、自然の一瞬を切り取る。小さな命を見つめるそのまなざしは温かく、優しい。 ふわりと愛らしい雀、手触りまで感じられそうな鵞鳥、風に抗う鷲。観察眼も確かなら、写し取る筆も見事だ。 古邨は日本画家として出発しており、古邨の花鳥版画の制作過程は一般的な浮世絵版画とは少々異なる。通常ならば、絵師が墨の輪郭線だけで書いた版下絵を制作するのだが、古邨の版画はまず、古邨が肉筆で画稿を描き、これを湿板写真で撮影し版下絵としたという。 古邨の技量ももちろんだが、摺師、彫師の力量も相当なものであったと考えられる。 この技術を持って、海外へと販路を拓いていったのだろう。 図録だけあって、収録点数も多く、古邨の絵をたっぷり楽しめる。 登場する鳥たちの簡単な解説があるのも楽しいところ。 日本では一度は忘れられた絵師であるため、その生涯には不明な点も多いようだが、今後さらに注目が高まれば、さまざまなことが明らかになっていくのかもしれない。

Posted byブクログ