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前衛音楽入門 の商品レビュー

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2019/08/23

長く音楽に向き合う生活をしていると、たとえそれがポップ・ミュージックやロックであろうとも、わずかな音からも意外に多くのことを読み取っている自分を見る。それはその音が作られた時代や地域、その社会的な背景など、これまで聴き続けた多くの音楽の積み重ねから自然と導き出されてくる。音楽好き...

長く音楽に向き合う生活をしていると、たとえそれがポップ・ミュージックやロックであろうとも、わずかな音からも意外に多くのことを読み取っている自分を見る。それはその音が作られた時代や地域、その社会的な背景など、これまで聴き続けた多くの音楽の積み重ねから自然と導き出されてくる。音楽好きには心当たりがあることではないだろうか。 難解だと言われる前衛音楽ですら、その世界に馴染んだリスナーは数分の音から様々なことを読み取ることができる。 けれどクラシック音楽の理詰めな解釈や時代背景や社会性を抜きにした説明は音楽の魅力を半減させるし、2度と聴く気にさせないことが多い。 しかし今作の筆者は編集者として長く音楽に関わっていたこともあり、音楽により自身の思考がドライブされ新しい視点や感覚に気がついたことを冷静にそして誠実な言葉で語りかけてくる。 90年代のダンス・カルチャーやロックなどポップ・ミュージックが次々と新しい価値観を生み出してきたのを目の当たりにしてきたことにより、頭で考えた論考ではなく自身の体験としての音楽を起点に語っている。なにより90年代はアカデミズムとは別の文脈で前衛音楽が聴かれ、引用され、そして大衆音楽と交差した時代でもあるからだろう。 そういう意味で第5章の「電子の歌」以降筆者の語り口は生き生きとしている。もちろんそれまでの章でも自身が前衛音楽を意識し、好奇心を刺激されたことが契機となり丁寧に掘り下げている。 20世紀、様々な音楽が新しい響きを目指し価値観を刷新し、数学的な解析を行い、認識や聴くという行為を見つめ直し、演奏すらも解体してきた。その過程で生まれた音はまた別のシーンや時代のヒントになり連なり今まで続いてきている、そう語れるのは音楽が筆者の心と思考を刺激してやまないからだろう。ある一つの音楽がドミノ倒しのように広がりながら筆者を遠くまで連れてきている。 21世紀も20年がすぎようとしている、音楽の聴き方もずいぶんと変わった。時代も地域もすべて並列に聴けるとはよく言われることだけど、音楽好きは変わらず一つの曲からいろんなことを読み取るだろうし、その曲がどこから来たのかを考えるだろう。そういう意味で本書に書かれている前衛は現代の音楽にも様々な形で引用され転用されている、もしなんらかのルートでここで取り上げられている音楽にたどりついた若い世代にとっては有意義な扉となるのではないだろうか。 そしてこの本で取り上げられた音楽に興味をもった方は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドをこよなく愛するニューヨーク在住の音楽ライター、アレックス・ロスによる『20世紀を語る音楽』をぜひ読んで欲しい、本書に近いテーマを別の視点で体験できる。

Posted byブクログ