日本経済論15講 の商品レビュー
「賃上げはなぜ必要か」(筑摩選書)の筆者による最新の日本経済に関する本。サイエンス社の「ライブラリ経済学15講」シリーズの一冊だが、他のシリーズ本とは違って筆者独自の見解が非常に強い一冊である。教科書というより政策提言本といったところか。 本書の経済分析・政策提言は、「賃上げは...
「賃上げはなぜ必要か」(筑摩選書)の筆者による最新の日本経済に関する本。サイエンス社の「ライブラリ経済学15講」シリーズの一冊だが、他のシリーズ本とは違って筆者独自の見解が非常に強い一冊である。教科書というより政策提言本といったところか。 本書の経済分析・政策提言は、「賃上げはなぜ必要か」で述べられた内容とほぼ同じだ。1997から1998年にかけての金融危機以降、日本企業は銀行を見限り、銀行の融資を受けずに財政基盤強化に邁進してきた。日本企業は設備投資や人件費に資金を回さずに、企業内部にひたすら内部留保(剰余余剰金)を積み上げている。その有様を「『要塞化』する日本企業」であると表現されている。 非伝統的金融政策による実質金利引き下げは、国際市場とくに米国の動きに左右されており、日本単独では実質金利引き下げができない、また巨額の財政赤字によりこれ以上の財政出動ができないというのが筆者の見解だ。財政金融政策といった伝統的なケインズ政策は限界であるとして、フローの企業内部留保に課税、春闘を通じた労働組合の下からの突き上げにより、『要塞化する』日本企業から内部留保を吐き出させることによる「賃上げの実現」をデフレ脱却の解決案としている。長期的には、少子高齢化対策が非常に重要視されており、育児休業給付金のような現金給付が説かれている。 今回も皮肉たっぷりの脇田節は健在だ。構造改革派からリフレ派、白川方明といった旧日銀派がバサリと斬られている。その皮肉たっぷりな書き方は読者を選ぶかもしれないが、自分は笑いながら楽しく読んだ。前書の「賃上げはなぜ必要か」は、あまり論旨が明快ではなく正直読みづらかったが、本書はそれに比べると遥かに読みやすい。 「本書の記述のほとんどは公表データをもとに考察しており、疑問に持たれた読者はデータをダウンロードしてグラフを書き、是非とも自分で真偽を確かめて欲しい。政策当局も自らの応援団ばかりを頼りにせず、より広く国民の「納得」という側面を重視してほしいと思う」(P.i)と書かれているように、官庁の公表データをe-stat辺りから拾って、本書のグラフを自分で再現すれば大きな勉強となるだろう。 特に重要だと思われるのは、『要塞化する』日本企業 (P.3)、資金過不足(フロー)の時系列変化 (P.50)、企業財務内容の時系列変化、付加価値の分配時系列変化 (P.53)、年齢別非正規雇用者累積増加数 (P.147)の5枚のグラフである。最低限この5枚のグラフを自力で是非とも作って欲しい。官庁の公表データの読み方の勉強としても、とても有効だと思う。色々と癖のある本だが、大変オススメです。買いましょう!
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