娘について の商品レビュー
「私」は老人介護施設で働く。財産といえば、亡くなった夫から譲られた二階建ての家ひとつ。二階に住む住人からの賃貸料が収入だ。娘が一人いるが、大学、そして大学院を出たが、非常勤講師をしている。老人介護施設で担当している老人にジェンがいる。元気だった時には、世界で活躍し、大学で講義もし...
「私」は老人介護施設で働く。財産といえば、亡くなった夫から譲られた二階建ての家ひとつ。二階に住む住人からの賃貸料が収入だ。娘が一人いるが、大学、そして大学院を出たが、非常勤講師をしている。老人介護施設で担当している老人にジェンがいる。元気だった時には、世界で活躍し、大学で講義もし、恵まれない子供に援助までした。本人は家族も親戚もいない。「私」はそんなジェンに人間的な扱いをしてもらえるように施設に文句をいっているが。担当の課長はうんうんと聞くばかり。そんな時に、娘が連れ合いを連れて家に飛び込んできた。その連れ合いはなんと女性だった。こうして、三人の緊張をはらんだ生活が始まる。ジェンダー、同性愛、親子、老人の問題をはらんだ小説。読んでいくのがつらい介護の現場での描写があった。
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どうしてそうも「真っ当」にいられるのか。 どこにも安らぎの場所がないのに、死なないために働く。老人の糞尿を洗い流し、明日にでも衰え死んでゆく人の傍らに立つ。自分と重ね合わせながら。たまたまその時他所で仕入れた「ケア階級」ってことばと結びつく。実際、主人公の「私」のように真っ当であ...
どうしてそうも「真っ当」にいられるのか。 どこにも安らぎの場所がないのに、死なないために働く。老人の糞尿を洗い流し、明日にでも衰え死んでゆく人の傍らに立つ。自分と重ね合わせながら。たまたまその時他所で仕入れた「ケア階級」ってことばと結びつく。実際、主人公の「私」のように真っ当でありつづけることは難しい。多くは「教授夫人」みたいになるだろう。真っ当に苦しんで、こうじゃない、なんでこうなの?とかって惑い続けて、自分の正義も社会の正義も全部重なり合う中で苦しみ続ける。簡単ではない。こういう諦めないところが韓国文学のすごいところだと思う。正気であれ、っていうのがたとえ腐った社会のなかにでも貫いてるんだろうか。どんなに苦しくっても。 どうしてこんなすごいもの書けるのかな。作者はまだ30代なのに。 随所で描かれるささやかな生活の情景がまぎれもなく「生」だった。
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出口の見えない不安の中にずっといるようで、主人公の視点で読み続けるのがしんどかった…。 最初は全く相容れない親子のように感じていたけれど、自分が不条理と感じることに立ち向かっていく様は似ている。 社会や周囲の人に拒絶されながらも、あたたかく毅然として他者に接する、娘の同性の恋人に...
出口の見えない不安の中にずっといるようで、主人公の視点で読み続けるのがしんどかった…。 最初は全く相容れない親子のように感じていたけれど、自分が不条理と感じることに立ち向かっていく様は似ている。 社会や周囲の人に拒絶されながらも、あたたかく毅然として他者に接する、娘の同性の恋人に惹かれた。
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“言いたい言葉、言うべき言葉、言ってはだめな言葉。もう私はどんな言葉にも確信が持てない。こんな話、一体誰にできるだろう。誰が聴いてくれるのだろう。言えもしなければ、聴いてももらえない言葉。主のいない言葉の数々。”(p.58) “くだらない非難やあざけりから逃れようとした結果、...
“言いたい言葉、言うべき言葉、言ってはだめな言葉。もう私はどんな言葉にも確信が持てない。こんな話、一体誰にできるだろう。誰が聴いてくれるのだろう。言えもしなければ、聴いてももらえない言葉。主のいない言葉の数々。”(p.58) “くだらない非難やあざけりから逃れようとした結果、自分がほんとにやるべきことができなくなる。そんなの、もうやめにしたい。これまであきれるほどくり返してきたけれど、これで終わりにしたい。”(p.182) “毎回それでも苦労しながらかろうじて乗り越え、また乗り越える。”(p.206)
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初めて読んだ韓国文学。 「家族」の呪縛、母娘の関係、生と死がとてもビビッドに、でも淡々と描かれていて、とても良かった。 まず描写がとても生々しい。語弊があるかもしれないが、韓国のちょっとまだ汚い部分(衛生的な面で)や残っている乱雑で乱暴な部分も生活のなかできちんと書かれていて、...
初めて読んだ韓国文学。 「家族」の呪縛、母娘の関係、生と死がとてもビビッドに、でも淡々と描かれていて、とても良かった。 まず描写がとても生々しい。語弊があるかもしれないが、韓国のちょっとまだ汚い部分(衛生的な面で)や残っている乱雑で乱暴な部分も生活のなかできちんと書かれていて、でも語り口がとても穏やかですごく引き込まれた。どの国にもあるなっていう日々の営みが自然に表現されているって、これぞ小説だなあと思うんですよね。筆致が見事だったと思う。 生きて死ぬことの怖さ、老いることの虚しさ、「家族」って何なのか。 登場するのは少し前の常識人代表みたいな「母」と、LGBTの娘とパートナー。母は育て方を失敗したのかとずっと悔やみ、自分の想いを理解しない娘を憎み、でも離れられない。 家族でたった一人残った娘とは分かり合えず、また娘は母を顧みないとわかっているにも関わらず「家族になれない、子供も産めない同性愛者でいいわけがない」と、娘の生き方を許せない母親。 心のつながりを感じるのは仕事で介護している患者であり、自分を労ってくれるのは娘ではなく娘のパートナーという「他人たち」だというのに。 しかし母親は嘆き、怒り、罵り続ける。その矛盾を分かったうえで、分かることなどないと、怒り続ける。 最後まで救いがあるわけではないけれど、本当に心にしみる良い本だと思った。きっと母親はこれからも怒り、嘆き、耐えていくのだろう。それが正しい、それしかないと思っているから。自分にはそれでも「家族」である「娘」がいるのだから。 私も家族が横と後ろには繋がってない(独り者)なわけでね、この母の気持ちはわかります。でも、娘のように生きることができる時代も来ているのだろう、とも思うのです。それが苦しくても。どっちも、苦しくて、痛いのだ。 家族って何だろう、生きるって何だろう、とずしんと考えられる一冊です。おすすめ。
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主人公の「私」は一人娘を持つ初老の女性。過去に教職に就いていた矜恃を胸にはしているけれど、その他はごく平凡な生活に疑問も反抗心も持たず生きてきた特別なことは何も無い女性。一人娘には存分に勉強させた為か「私」が歩んで来た(またそれを望んでいた)平凡で一般的な人生を歩んではいない。そ...
主人公の「私」は一人娘を持つ初老の女性。過去に教職に就いていた矜恃を胸にはしているけれど、その他はごく平凡な生活に疑問も反抗心も持たず生きてきた特別なことは何も無い女性。一人娘には存分に勉強させた為か「私」が歩んで来た(またそれを望んでいた)平凡で一般的な人生を歩んではいない。それが「私」を苦しめる。娘の恋人は女性。家父長制、男性中心の国で女性ばかりの共同体。平凡からはみ出る娘に愛情はあるものの受け入れることは出来ない。「私」も世間も。なぜ人が人を愛するのに、罰を受けなければならないのだろう。愛情は掛け値なし尊いはずではないのか。同棲愛者、認知症の高齢者、女性。「私」の視点を借りた、マイノリティという弱者が主人公の物語だったと思う。同じ世の中を生きながら見える世界が違う人たち。でも、お互いの視点に立つことはきっとさほど難しいことではないと思いたい。きっかけさえあれば、きっと。
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2読め。 1読めは暗さ重たさばかり感じてしまったが、2読してみると、ジェンを連れ出すあたりや終わりのほうなど、ちょっと爽快感もあるな。老い、親と子、仕事、同性愛、そして”家族”とは何か。 母は介護施設でそのやり方に怒り、娘は大学の不当解雇に怒り、社会的には実は同じような構造にい...
2読め。 1読めは暗さ重たさばかり感じてしまったが、2読してみると、ジェンを連れ出すあたりや終わりのほうなど、ちょっと爽快感もあるな。老い、親と子、仕事、同性愛、そして”家族”とは何か。 母は介護施設でそのやり方に怒り、娘は大学の不当解雇に怒り、社会的には実は同じような構造にいるんだよな。
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