文士たちのアメリカ留学 の商品レビュー
経歴によれば、著者は文藝春秋社・日本経済新聞出版社に在籍した出版人。1953~1963年の10年間続けられたロックフェラー財団留学生としてアメリカに渡った文学者たちの在米体験とその後の文業をレビューする。金志映氏をはじめとする最新の研究を参照しつつ、それぞれの書き手についてポイ...
経歴によれば、著者は文藝春秋社・日本経済新聞出版社に在籍した出版人。1953~1963年の10年間続けられたロックフェラー財団留学生としてアメリカに渡った文学者たちの在米体験とその後の文業をレビューする。金志映氏をはじめとする最新の研究を参照しつつ、それぞれの書き手についてポイントを絞ってまとめられている。目新しい指摘や発見があるわけではないが、問題の概要を掴むには格好の一冊。自らをロンドン留学中の漱石に重ねたのだろう若き江藤淳のプリンストンでの猛勉強ぶりが印象に残る。 それで結局のところ、ロックフェラー財団のプロジェクトにはどんな意味があったのか? それを考える上では、「冷戦期のアメリカにとっての文化宣伝とはいかなる思考に立脚して行われたか」をまずは検証する必要があるだろう。少なくとも言えることは、当時の米国の政策が、現実の移動と滞在の経験が持つ価値をよく理解していたことではないか。文化宣伝は、バラ色のイメージや先進的な理念を提示するだけでは不十分なのだ。生活の実態に即した経験と、その気になれば移動が可能になるという条件が、結果的にその国や地域に対する「近さ」のイメージを醸成していく。「悪評は無関心に勝る」というのは、文化外交の場面でも当てはまるのではないだろうか?
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