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近代世界の誕生(下) の商品レビュー

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2020/01/03

 一般に「グローバル・ヒストリー」と銘打っても、旧来の「帝国(主義)史」の枠組に地方史・地域史(あるいは取ってつけたようなマイノリティ史)の知見を並べるだけで、有機的な世界史像の構築にはつながらない場合が多々あるが、本書は従来の通史では「従属」的な役割しか与えられなかった地域や人...

 一般に「グローバル・ヒストリー」と銘打っても、旧来の「帝国(主義)史」の枠組に地方史・地域史(あるいは取ってつけたようなマイノリティ史)の知見を並べるだけで、有機的な世界史像の構築にはつながらない場合が多々あるが、本書は従来の通史では「従属」的な役割しか与えられなかった地域や人々の動向が世界の歴史の原動力として明確に描かれており、類書とは一線を画している。「市民革命」と「産業革命」から「帝国主義」へという西欧中心の単線的・発達段階的な歴史像は完全に放棄され、西欧の優位性の要因を工業化の成功に置く近代化論的な歴史像も否定される。生活様式や土地制度における前近代との連続性が強調される一方、農業社会のゆるやかな革新や旧帝国(特に清国やオスマン帝国)の内発的変革に近代化の動因を認め、一定の評価を与える。特に資本主義と奴隷制を相互補完的に捉える見方(奴隷貿易廃止後も奴隷制は拡大し、資本主義は「自由な労働力」ではなく債務奴隷を生み出す)や、19世紀に宗教は世俗化せず、逆に新たな装いをもって(国民国家とパラレルな形で)再構築され強化されるという見方などは刺激的である。  とはいえ手放しで評価できないのも確か。本書は西欧人の歴史書としては日本に言及する割合が多いのだが、参照している日本人史家の文献は色川大吉『明治の文化』の英訳のみで、基本的に英語圏の著作に負っており、日本人には疑問符をつけざるを得ない叙述もままある。特に速水融の「勤勉革命」論を日本のみならず西欧を含む全世界に適応する(産業革命の「革命」性に否定的なのとは対照的)のだが、周知の通り「勤勉革命」は近代主義を反転させた(極端にいえば高度成長期の日本型労務管理や企業風土を肯定するための)イデオロギーという色彩があり、あまりにも無邪気に多用するのは相当な危うさを感じる。著者の元来の専門は植民地期インド史のようだが、概して専門外の史実認識や解釈の正確性には不安が残る。

Posted byブクログ