サラマンダー殲滅(下) の商品レビュー
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愛する夫と娘を「汎銀河聖解放戦線(汎銀戦)」の無差別テロで失った主婦・神鷹静香は、絶望のあまり心を閉ざして病院の集中治療室にいた。彼女を目覚めさせるために元軍人の父親が取った方法は、人為的に汎銀戦への強い復讐心を植え付けるというショック療法。憎しみと共に目覚めた静香には、一方で、平凡な主婦に過ぎない彼女が本当に復讐行為に走ることを予防するために、汎銀戦メンバーを前にすると体の力が抜けてしまうという暗示も埋め込まれていた。 復讐の炎に燃えつつもそれを果たすことが出来ない、苦悶する静香の前に現れたのは、かつて父の部下だった軍人・夏目、夏目の知人で惑星メフィスで軍人指導の任に当たる女丈夫・ドゥルガー、そしてパイロット志望の気弱そうな青年ラッツォ・・・彼らの力を借りて、静香の壮絶な復讐劇が、今ここに幕を開ける! 梶尾真治と耳にして思い浮かぶのは、「おもいでエマノン」「美亜に贈る真珠」「クロノス・ジョウンターの伝説」といった、切なくて叙情的な、涙腺直撃系の作風です。そんな作風の作家が、この↑あらすじですよ。センチメンタルさの欠片もない、直球王道アクションSF!敵と味方がはっきりと判りやすく、登場人物は端役に至るまでキャラ立ちまくり。舞台設定もガジェットもやり過ぎなぐらいド派手で漫画的で、しかも展開がスピーディで緩急に富み、頁を繰る手が止まりません。上下巻の結構なボリュームなのに、あっという間に読了しました。 なぜ叙情派の作家が、こんなベクトル真逆の作品を・・・? と、その点が鴨的にすごく不思議で、その疑問を自分なりに解決したくて読みました。最後まで読み切って、その回答が、圧倒的な感動と共に理解できました。 一介の平凡な主婦に過ぎなかった静香が、善意からとはいえ人為的に強烈な復讐心を埋め込まれたがために、取り返しのつかない様々なモノを代償にし、数え切れないほどの人々を巻き込みながら、遂には汎銀戦の本部基地「サラマンダー」へと到達する。 静香がそこで目にしたのは、惑星の生存環境の変化と和平会議の失敗により行き場を失い、死屍累々となった「サラマンダー」の姿。静香が復讐を果たすより前に、汎銀戦は既に自滅していたのだった。・・・しかし、自らの記憶をも代償にした静香には、その光景が示す意味すら理解することが出来ない・・・。 それまで払ってきた代償が、多くの人々の犠牲が、全て無駄に終わるというこの結末。思わず頁を繰る手が止まってしまうほどの衝撃を受けました。 判りやすい勧善懲悪とド派手でマンガチックな展開、こうした取っ付きやすい物語の骨格をベースに梶尾真治が描きたかったこと。それは「復讐の空しさ」であると、鴨には読み取れました。 ラストシーン、全ての記憶と人格を失って廃人同然となった静香の介護をする夏目(作中では、夏目は「静香を支え続ける」といった表現をしていますが、鴨には「介護している」としか見えませんでした)の悲壮な想い、夏目から兄が名誉の戦死を遂げたと聞かされたアミが、ただの無駄死にだと直感的に理解して悔し涙を流す姿がひしひしと胸に迫り、ここまでの派手な物語展開はこのラストシーンを描きたかったがためのお膳立てだったんだな・・・としみじみ感じた次第です。やっぱり、梶尾真治は叙情派作家でした。 ストーリーテリングの巧みさは抜群なので、是非映画化して欲しいです!
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個々のエピソードは面白いけど長編の最後にしてはクライマックスは拍子抜けな感じがどうしてもしてしまう 主人公はとある事情で全く活躍しないし、前半の戦闘訓練も何だったんだろうという展開 敵が個性的で面白かった上巻の方が好きかな
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