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ポストモダン・ニヒリズム の商品レビュー

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2019/08/24

著者の議論についていけるか、不安を覚えながらも、試し読みで理解ができたので、購入した。しかし、本格的に読解をしてみると、20世紀のヨーロッパにおける思想状況は、説明を読んでも上の空だった。ロックやアダム・スミスやヘーゲル、それにマルクスの思想の骨子を説明した内容はすうっと理解でき...

著者の議論についていけるか、不安を覚えながらも、試し読みで理解ができたので、購入した。しかし、本格的に読解をしてみると、20世紀のヨーロッパにおける思想状況は、説明を読んでも上の空だった。ロックやアダム・スミスやヘーゲル、それにマルクスの思想の骨子を説明した内容はすうっと理解できるのに、20世紀の思想状況であるポストモダン思想は上の空で説明を聞くしかなかった。従って、最終章のヨーロッパ事情は鼻から無理だと決めつけて読まなかった。しかし、ポストモダンやマルクス主義を踏まえて、日本の近年の思想動向を説明したあたりは、やはり自国の事情である故、極めて現実味を帯びた話として興味深く読んだ。実際、フリーターが新しい生き方として称揚された時代が一変して、バブル崩壊以後、不安定な職業生活としてネガティヴに受け取られていくあたり、掃除のおばちゃんから同様の評価を私は聞いていた。また、全共闘の加担者たちが寄る辺なき自分たちの思想的基盤をどうにかしようと、怪しい実践活動に従事していた、そんな裏話も興味深く読んだ。そもそも、先の大戦で敗北し、アメリカに日本のそれまでの思想を粉砕された我々日本人は、思想的に迷える子羊となり、生きる指針としても諸説紛々として定まらない、そういう状況が続いたのではないか。しかし、日本という国は絶対的価値で統御するはできず、タコツボのような社会の中の狭い居場所でそれぞれあまり干渉し合わず生きているのが現実かもしれない。そんな日本人が隣の人は何する人ぞと芭蕉の句を見た時、文学が人々の絆となる可能性は露わになっていたと思う。仏教の儀式、お盆や葬式も絆を生む形式だが、宗教的絶対価値、南無阿弥陀仏などに絶対帰依する人もそんなに多くない。つまり、生きる信条を振りかざすより、我々は世の中の流れに乗って気持ちよく生きている。そんな我々でも国際社会と協調して社会生活を送るには、戦前の価値には戻れず、アメリカの粉砕を一旦受け入れて再スタートせざるを得ない。結果、迷える子羊のままだが、必要なのは古来の日本的価値と連続性を再構築し、国際的にも門戸を開くこと。曖昧だが、立ち位置を定めなければならない。

Posted byブクログ