芙蓉の干城 の商品レビュー
読了し、心が震えた。人の心情の機微を追う筋立てと、まるで生きているかのように個性を際立たせる登場人物が織り成す、非の打ち所のない美文で描かれた物語だった。昭和初期の時代背景の中での、沢之丞、治郎、澪子の世代コントラストも趣深い。 全編を貫く謎解きの面白さや真摯な姿勢が心地好いのは...
読了し、心が震えた。人の心情の機微を追う筋立てと、まるで生きているかのように個性を際立たせる登場人物が織り成す、非の打ち所のない美文で描かれた物語だった。昭和初期の時代背景の中での、沢之丞、治郎、澪子の世代コントラストも趣深い。 全編を貫く謎解きの面白さや真摯な姿勢が心地好いのは前提として、やはり同じく全編に渡って少しもぶれることのない美しい文章がこの作品の最大の魅力であるように思える。また次に松井さんの作品を読むのがすごく楽しみだ。
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これで「ふようのたて」と読みます。 タイトル通り、美しくも儚い愛国と戦争の歴史渦巻く昭和八年の東京を舞台。 歌舞伎ものか~~と気軽な気持ちで手に取りましたが、いや、面白かった。 素人である読者を物語の世界へとぐいと引き込む松井先生の筆力は圧巻。
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前作の『壺中の回廊』を読んだのが2013年なので、殆ど覚えていない状態で本書を読みました。 江戸歌舞伎の大作者の末裔・桜木治郎先生が事件に巻き込まれ、真相に挑むという内容は前と同様。 歌舞伎の大劇場・木挽座そばで殺された右翼の幹部とその愛人。彼らと木挽座の関係を探るうちに、若くし...
前作の『壺中の回廊』を読んだのが2013年なので、殆ど覚えていない状態で本書を読みました。 江戸歌舞伎の大作者の末裔・桜木治郎先生が事件に巻き込まれ、真相に挑むという内容は前と同様。 歌舞伎の大劇場・木挽座そばで殺された右翼の幹部とその愛人。彼らと木挽座の関係を探るうちに、若くして亡くなった歌舞伎役者の壮絶で悲しい背景が浮かび上がってくるのです。 歌舞伎に造詣が深い松井さんだけに、劇場の裏方等の描写がとてもリアルで勉強になります。伝統芸能特有の世界観と昭和初期の雰囲気が味わい深い、歌舞伎ミステリーを堪能させて頂きました。
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初出2017〜18年「小説すばる」 歌舞伎製作者松井今朝子の面目躍如たる大作。 時代は5.15事件の翌年、軍部が台頭し、国粋主義団体も暗躍するなか、そのひとつの資金担当の大物小見山が、歌舞伎見物の後、連れの女性とともに他殺体でみつかる。 探偵役は、歌舞伎役者の孫、歌舞伎作家の...
初出2017〜18年「小説すばる」 歌舞伎製作者松井今朝子の面目躍如たる大作。 時代は5.15事件の翌年、軍部が台頭し、国粋主義団体も暗躍するなか、そのひとつの資金担当の大物小見山が、歌舞伎見物の後、連れの女性とともに他殺体でみつかる。 探偵役は、歌舞伎役者の孫、歌舞伎作家の息子で大学講師の桜木次郎。幼い頃から出入りしていた木挽座で、事件の糸口を拾ってゆく。座頭の孫の襲名に向けて一座が動いているなかで、父親で才能に溢れて、独立興行もしていた歌舞伎役者の5年前の不審な死にたどり着く。 次郎の妻の従姉妹で新劇の女優澪子が、陸軍中尉と見合いするのも、物語の背景を巧妙に広げている。 芙蓉はいろいろな意味を込められている。泥の中から浮かび出て蓮のように美しく咲く歌舞伎役者、直接は語られていないが富士山の異名ですなわち日本、そして干城(たて)となってそれを守ろうとする者たち。しかしそこに刺さり込む阿芙蓉。 犯人の最後は、この時代の警察のやり方もかくやあらんというもので、綿密な時代考証を元に精緻なミステリーに仕上がっている。
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