ハンドレページ・ヴィクター の商品レビュー
フォークランド紛争のブラックバック作戦でヴァルカン爆撃機を支援したヴィクター空中空輸機。 英国の核報復力として開発されるが、ソビエトの防空体制が充実していることが分かり、低空侵攻に攻撃方法が変わる。このとき、ヴァリアントの疲労破壊が進んでいて低空飛行に耐えられなくなり退役。ヴァ...
フォークランド紛争のブラックバック作戦でヴァルカン爆撃機を支援したヴィクター空中空輸機。 英国の核報復力として開発されるが、ソビエトの防空体制が充実していることが分かり、低空侵攻に攻撃方法が変わる。このとき、ヴァリアントの疲労破壊が進んでいて低空飛行に耐えられなくなり退役。ヴァリアントが担っていた空中給油任務をヴィクターが受け継いだところから、空中給油機としての人生がはじまる。 振り返れば空中給油機に一番向いてたのは確かにヴィクターで、狙って開発したわけではないのに湾岸戦争のちょっと後まで英国のタンカー任務を受け持っていた。 突起が少なく抵抗の少ない胴体に、後退翼のデメリットを低減するための独特の三日月翼。三日月翼は胴体付近で翼弦を長くし、主翼の高さを高めて構造を軽くし、容積を稼いでエンジンと脚を収め、胴体位置の桁を重心より前方にして重心位置の長大な爆弾倉を可能とした。 後退翼の爆撃機として大きく成功したのはボーイングのB-47〜B-52で、主翼にポッド式にエンジンを積む方式は爆撃機だけでなく、旅客機の標準的な形態になった。 しかし、爆撃機としては胴体の重心位置を爆弾に譲り、脚は後ろに遠慮して独特の自転車式降着装置となる。この方式は通常の形式より着陸が難しく、ヴィクターの方が合理的と言える(旅客機は脚を頑丈な胴体キャリースルーに置ける)。 「三日月翼」という言葉に目をつぶって、主翼の胴体付近の後退角と翼弦を大きくする、という構造を探すと、B-1爆撃機やTu-160に行き当たる。実はヴィクターの構造を踏襲する爆撃機は現役で存在する。 もっとも、これらは可変後退翼で、重心位置を左右のヒンジをつなぐボックス桁が通っている。B-1Bの爆弾倉がこれを避けるために前後の2分割なのはご存知の通り(より正しくは前2、後1の3分割)。 今や爆撃機が通常爆弾を大量にばらまく時代ではなく、核兵器もSLBMの方が有望とあっては、爆撃機の未来は限定的となる。 不思議な形で、しかし実は案外合理的だったヴィクターの設計も、「爆撃機」が歴史の彼方に消えるとともに姿を消しつつある。
Posted by
- 1