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ピアノ・レッスン の商品レビュー

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8件のお客様レビュー

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2023/12/19

それなりに生きてくると色々な記憶が澱のように溜まってくる。短編小説の題材に仕立てられるものの一つや二つはないものかと底をさらってみると、何気ない日常の延長に過ぎないが、いまだに鈍く疼く断片を思い出す(なんだか『仕事場』のミスター・マリーみたいだ。くわばら、くわばら)。 “平凡な...

それなりに生きてくると色々な記憶が澱のように溜まってくる。短編小説の題材に仕立てられるものの一つや二つはないものかと底をさらってみると、何気ない日常の延長に過ぎないが、いまだに鈍く疼く断片を思い出す(なんだか『仕事場』のミスター・マリーみたいだ。くわばら、くわばら)。 “平凡な日常を送る人々のかけがえのない瞬間を描く”と評されるアリス・マンローの作品と、僕の個人的な屈託を巡る思い出は、さて同じかと問えば決定的な違いに気づかされる。 マンローが掬い上げた物語には、ひとときの間に沢山の思いが幾重にも層をなして交差する。覗き込む角度によって描かれた世界は色を変える。 “要約しようとしてもこぼれ落ちるもののほうが多いストーリー”という、翻訳者のあとがきは言い得て妙だ。 『ウォーカーブラザーズ・カウボーイ』は、すごく好きな一篇。 ウォーカー・ブラザーズ商会の訪問販売員である父親は、小さな娘と更に幼い息子を、二人の気晴らしのためにルートセールスに同行させてあげる。 好き好んでやっている仕事ではない。訪れた家で屈辱を味わうこともある。まさに今日はそんな日だ。ちょっとおどけた冗談に変えて笑い飛ばすこともできるけど、妻の前ではそうしたくない。 家庭も妻も大事だが、自分自身を晒せる場所じゃない。 独身時代に親しかった女性のノラに会いに行くことにしたのは計画的ではなかっただろう。こんな日は、まっすぐに帰る気にはなれなかった。子供連れなのはセーフティーネットだ。彼女にも、彼自身にとっても。 四人は居間で歌い、彼女は娘と蓄音機をかけて踊り、楽しく過ごす ーもしかしたら、ありえたかもしれない、もうひとつの未来の擬似家族ー。 踊ろうよと彼を誘う彼女に、父親は“だめだよ、ノラ”と静かに告げる。危ういときは過ぎる。 この物語の語り手は、娘である少女だ。父親の心理描写がある訳ではない。 少女は、“弟と二人で外で遊んできたらどうだい”、という父親の言葉に込められた意味を汲めるほどには、ませてはない。だが、家路に向かう車を運転する父親の沈黙に、今日のことを話しちゃいけないと思うほどには大人だ。 少女が感じる漠とした不安を夏の夕べの空に仮託して締める最後の一文の見事さといい、短編小説の魅力が詰まっている。 『ユトレヒト講和条約』は、また全く違う読後感だ。ここには書かずにはいられない、そして読まずにはいられない切迫した感情と記憶の奔流がある。 家族を巡る昏い記憶は、互いを結びつけると共に越えられない断絶を作りだす。同じ記憶を共有する兄弟姉妹だからこそ決して言うことのない、だけれどもふと漏らす言葉というものが、確かに、存在するのだ。 思えば、記憶は登場人物以上に、風景と分かち難く結びついている。 僕もせっかくおぼろに思い出した、しがなくも大切な記憶を違う角度で見てみよう。また沈んで消えてしまう前に。あの日の空の色を思い浮かべながら。

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2023/02/08

イラクサがとても良かったので、期待して読んだけど、イラクサには敵わなかった。本著は処女作のようで、そのせいか主人公達の遣る瀬なさが強烈に伝わって来る。著者が若いってこともあるかもしれない。 しかしながら、人が人と関わることで生じる摩擦、必ずしも仲が悪いわけでもなく、親しい間柄に...

イラクサがとても良かったので、期待して読んだけど、イラクサには敵わなかった。本著は処女作のようで、そのせいか主人公達の遣る瀬なさが強烈に伝わって来る。著者が若いってこともあるかもしれない。 しかしながら、人が人と関わることで生じる摩擦、必ずしも仲が悪いわけでもなく、親しい間柄にも生じるストレス、そういった表現が切々と伝わって来る。やはり巧みな作家だと思う。

Posted byブクログ

2022/04/03

聞きながしてしまいそうな会話、見ても忘れてしまいそうな風景、そう言った日常の些細なことにフォーカスして拡大して心象を描いていると思った。多分いくつかは作者の体験や見て来た世界であるんだろうけど、短編の一つに書かれていた「感じやすい子」というのは作者自身のことだろう思った。

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2022/02/27

カナダ人作家初のノーベル賞を受賞した短編の名手と言われるアリスマンロー氏による一冊。 カナダの田舎町で暮らす人々の何気ない日常を描いた15篇からなる短編集。 登場人物もごく普通の少女が多く、普遍的な営みをする人々の心の動きを丁寧に描くのが上手い人だな、と思った。 マンロー氏は...

カナダ人作家初のノーベル賞を受賞した短編の名手と言われるアリスマンロー氏による一冊。 カナダの田舎町で暮らす人々の何気ない日常を描いた15篇からなる短編集。 登場人物もごく普通の少女が多く、普遍的な営みをする人々の心の動きを丁寧に描くのが上手い人だな、と思った。 マンロー氏は農家に生まれ、父は毛皮獣の飼育の仕事をしていたようで、物語もその描写がいくつか見られた。 ウォーカーブラザーズカウボーイ、男の子と女の子、タイトルのピアノレッスンが良かったかな。 ピアノレッスンは、不器量で善良な老いたピアノの先生のもとで行われる発表会で起こったちょっとした奇跡のお話。派手さはないし、誇張している表現もない。だけど何だか胸にじんわりくる物語だった。 海外の小説もたまに読むと面白い。こんな時期だし、異国にいる気分を味わえるのも醍醐味ですね。

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2020/09/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

アリス・マンローのデビュー作品集。 短編15作品が収録されています。 1968年度カナダ総督文学賞受賞。 52年前の本ですがそれを感じさせません。 マンローは3冊目ですが個人的に本書が 一番読みやすかったです。マンロー自身の体験を軸に 書かれている作品が多く、臨場感に溢れた内容 になっています。どの作品も良かったので、 特に良かったのはこの作品!というのが 挙げられない~(^^;)

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2020/01/30

これは私の物語だ。この短編集を読んだ人(特に女性)はみんなそう思うんじゃないだろうか。 男勝りだった少女が長ずるにつれて自分の性と直面し、味わう屈辱。いじめられっ子に手を差し伸べる優越感と後ろめたさ。どれもごく普遍的で、だからこそ言葉にしてしまうとありきたりの表現になりそうな感...

これは私の物語だ。この短編集を読んだ人(特に女性)はみんなそう思うんじゃないだろうか。 男勝りだった少女が長ずるにつれて自分の性と直面し、味わう屈辱。いじめられっ子に手を差し伸べる優越感と後ろめたさ。どれもごく普遍的で、だからこそ言葉にしてしまうとありきたりの表現になりそうな感情を、こんな文章で、こんな物語にしてしまうのか、と衝撃を受けた。 一つひとつの話は短いけれど、読み応えは抜群。

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2019/06/08
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

住んでいる国も場所も年代も今の自分とは明らかに違うのに、読んでいると既視感のある空気感や感情に心を揺さぶられる。 以前、村上春樹の小説が世界中で読まれる理由として、「国や人種を超えた普遍性」という様な評論を読んだと思うのだが、アリス・マンローについても同じ様なことが言えるのではないか。そう考えると、今年こそ村上春樹にノーベル文学賞を取って欲しい、と思ってしまった。

Posted byブクログ

2019/03/17

子どもの残酷、年寄りの醜さ、田舎の閉塞、そして記憶の中にときどき光るかけがえのない一瞬。なんでもない日々をよくぞこのように美しく書き起こせるものだよ。

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