欲望女課長 の商品レビュー
権力争いのストーリーとオープンな官能が抜群に絡み合う
タイトルでイメージされるような肉欲も露わに誘惑してくる女課長は出てこない。課長への昇進を貪欲に目論んでオンナの武器をもフル活用する上昇志向の強いキャリアOLと、出世など全く考えておらず、その気もなかったのに大抜擢される一般職のOLがメイン格のヒロインだからである。課長昇進を目指す...
タイトルでイメージされるような肉欲も露わに誘惑してくる女課長は出てこない。課長への昇進を貪欲に目論んでオンナの武器をもフル活用する上昇志向の強いキャリアOLと、出世など全く考えておらず、その気もなかったのに大抜擢される一般職のOLがメイン格のヒロインだからである。課長昇進を目指す欲望が露わになっているという意味合いが含まれるタイトルなのであろう。そして、その結果はどうなったのであろうと繋がる。それだけの高いドラマ性がある。エンタメ官能の第一人者と称しても差し支えなかろう作者の持ち味が存分に発揮されている。 中堅広告代理店の次期社長を巡る改革派(と称する乗っ取り派)と守旧派(健全な改革を目指している)に分かれた権力争いをベースにしており、いわゆる勧善懲悪のドラマである。現社長の突然の退任騒動により副社長がクローズアップされたことで、順当に進めば次期社長と目されていた専務とその一派がこれの阻止に蠢き始める。阻止しなければ定年が訪れて社長昇進の目が潰れるという芸の細かい設定が盛り込まれている。社内の誰が敵で誰が味方なのかに加え、取引先に始まり、縁のある政治家や闇のフィクサーに料亭の女将まで、様々な分野の社外にまで及ぶスケール感のある権謀術数もある。官能面を除けば、まるでテレビドラマを見ているかのよう。そうした複雑な人間模様を軽快に書き進める作者の力量は言わずもがなであろう。 そもそもの広告代理店に、ロンドンタクシーを模した新型車両や米中貿易摩擦といった時事を(本作発売の)2018年にして散りばめているのは最先端と思われ、物語をさらりと洗練させつつ「それらを知っている作者」も忍ばせているのはニクいところ。 また、こうしたドラマ性が高いと官能面がおざなりになりがちだが、そんな片肺飛行をする作者ではない。29歳を最年少とする大人達の蠢きは官能の蠢きでもあり、それを作品のテイストに則してオープンに、それでいながら淫猥に描いている。営業部のエース社員からさんざんに貫かれて蕩けてしまう場面があれば、己の欲望、その目的完遂のためならライバルへの枕営業ならぬ枕取引も辞さないなど、ヒロインの立ち位置に応じた官能描写が引き立っていた。 物語が進むに連れて官能よりもストーリー(結末への道程)が幅を利かせてしまうのは、その特質上、致し方ないところか。そんな大抜擢なんて実際はあり得ねーといった意見も出よう。しかし、本当のような嘘を本当らしく描くのがフィクションであるならば、その定義とツボをしっかり押さえた、最後にスカッとする面白い物語を時にオモシロく描いた、まさにエンタメ官能な1冊。それが本作であろう。
DSK
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