村岡典嗣 の商品レビュー
(1) 日本思想史学を確立した村岡典嗣。 本書は、その評伝である。 戦前・戦中の国粋主義とは全く異なり、実証的・学問的に、「日本精神」が究明されてきた詳細が触れられる。 圧巻は、大東亜戦争(太平洋戦争)終了直後の氏の講演の記述である。 (2) 昭和20年9月、村岡典嗣は、...
(1) 日本思想史学を確立した村岡典嗣。 本書は、その評伝である。 戦前・戦中の国粋主義とは全く異なり、実証的・学問的に、「日本精神」が究明されてきた詳細が触れられる。 圧巻は、大東亜戦争(太平洋戦争)終了直後の氏の講演の記述である。 (2) 昭和20年9月、村岡典嗣は、「日本精神を論じて敗戦の原因に及ぶ」と題した講演を行った。(「日本精神を論ず―敗戦の原因」という文章に整理) ①「日本精神」には、「国体」と「世界文化の摂取」の二つの特徴がある。 ②「国体」とは、天皇中心の血族的国家ということであり、建国以来一貫して、万世一系の皇室を載いて、国が成り立ってきいう形である。 ③「世界文化の摂取」とは、そうした「国体」を基盤としつつ、常に諸外国との交渉、接触をし、儒教、仏教、そして西洋文化など、世界のすぐれた文化に対して、これを受け入れてきた という歴史的事実である。 ④そして、「全体としてこの二つが一貫して顕著なる特色をなし、我国の歴史を構成してゐることは、 之を諸外国の場合に比較して明白疑ふべからざるものがある」 にもかかわらず、今回の戦争は、「他 国に対して、世界文化摂取の歴史的態度に存した如き認識を忘失」したこと、これが「凡ての根本であつた」とする。 ⑤つまり「日本精神」を構築する二つの柱(「国体」と「世界文化の摂取」)のうち、一つ(「世界文化の摂取」)を完全に失っていたということになる。 ⑥問題 は、なぜ忘却してしまったのか、である。 ⑦「日本精神の語は近時盛んに宣揚されて、一般の通念となつたにも拘らず、十分な学問的省察を経ず、 寧ろ感情的に主張された観があり・・・・・・十分なまた公正な学的認識を欠き、その結果不知不識自己陶 酔に陥り、自ら誤り世を一指導者階級を始め一般を、誤らせ、自ら諸々の方面に作用し、前記の 〔敗戦に関する〕諸々の原因の根底とはなつた。 (「日本精神を論ず 「敗戦の原因」『日本思想史研究 第五巻 国民性の研究」) ⑧しっかりとした「学的認識」がないまま、「日本精神」は過剰に喧伝されてしまった。 このために 驕りが生まれ、あたかも「国体」のみが「日本精神」であるかのように錯覚することで、「自己陶酔」に陥り、世界の把握を誤り、戦争へと繋がっていったのである。 ⑨「日本精神に対する明瞭なる認識にもとづく叡智の欠乏が考へらるべく、遡ってその事あらしめた原 因として、我国の学界に於ける、自国に対する真の学問的研究の未開拓や軽視が看過しえない。」 (「日本精神を論ず―――敗戦の原因」) ⑩こうして、敗戦の原因を学問的精神の欠如すなわち学間の独立の無視にあったとし、日本人同胞に 猛烈な反省を促したのである。 ⑪一方で、これまでの歴史において、日本人が成し遂げてきた「義勇奉公、忠君愛国の精神と功業」は、今回の敗戦によって否定されるわけではないとし、「日本精神に基づいた民主主義の実現こそ我 国が世界に貢献すべき」方法であると、力強く「新日本の建設」を呼びかけた。 (3) 戦後、「国学」・「国体」・「日本精神」は、語られなくなった。日本史において本居宣長や平田篤胤がなし得た業績も省みられなくなった。しかしながら、2000年を超えて、津田左右吉、和辻哲郎に並ぶ学者として、村岡典嗣は位置づけられるようになった。
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日本思想史という学問分野の創設に貢献した村岡典嗣の評伝です。 国語学者であり国学者であった山田孝雄とのかかわりについて触れられ、戦前における「日本精神」にまつわる多くの言説のなかで村岡の研究態度がどのような位置を占めるものだったのかということについてある程度掘り下げた議論が展開...
日本思想史という学問分野の創設に貢献した村岡典嗣の評伝です。 国語学者であり国学者であった山田孝雄とのかかわりについて触れられ、戦前における「日本精神」にまつわる多くの言説のなかで村岡の研究態度がどのような位置を占めるものだったのかということについてある程度掘り下げた議論が展開されており、興味深く読みました。 ただし、こうしたテーマを考えるうえで、アカデミズムにおける「日本思想史研究」と在野における「日本精神の理解」との距離を的確に把握することが重要であるように思われます。なによりも村岡そのひとが、まさにこの二つの領野にまたがって研究者としてのキャリアを形成してきたことを考えあわせる必要があるのではないでしょうか。個人的には、こうした問題についても立ち入って論じてほしかったように思います。
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