彼方の本 の商品レビュー

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2020/11/18

「人間も箸と同じや。研いで出てくるのは、この塗り重ねたものだけや。一生懸命生きてさえおったら悩んだことも、落ち込んだことも、きれいな模様になって出てくる。」。ドラマ『ちりとてちん』で塗り箸職人(米倉斉加年)が主人公の孫娘に言うこの台詞がとても好きだ。本書を手に取って、間村氏の装丁...

「人間も箸と同じや。研いで出てくるのは、この塗り重ねたものだけや。一生懸命生きてさえおったら悩んだことも、落ち込んだことも、きれいな模様になって出てくる。」。ドラマ『ちりとてちん』で塗り箸職人(米倉斉加年)が主人公の孫娘に言うこの台詞がとても好きだ。本書を手に取って、間村氏の装丁はまさに彼の人生の様々な体験を研いで作られたようなものだと思った。故郷の子ども時代、アングラ演劇に熱中し、古本屋に通い、ジャズ喫茶で過ごし、俳句に目覚めた大学時代、さまざまな分野の人物との交遊、旅先で見つけたもの(木切れや蛇の抜け殻!)、それら全てが模様の材料になり、間村の生きざま自体が研ぐ行為となって装丁が生まれているよう。そして全くかけ離れた材料なようなのに不思議と本の内容とマッチしているのも不思議である。堀江敏幸氏の『本の音』に使われ本作の表紙も飾ったペンギンの小物は京都の骨董市で見つけられたが、レコード針の宣伝用に配られたフィギュアだったという。本の音色を言葉にした書籍にぴったりだったのだ。内堀弘『ボン書店の幻』が氏の装丁だったのも知らなかったが嬉しい。手に入れそびれたがいつか入手したいと思っている角川書店『中原中也全集』も氏の手になる装丁だったのか。本の装丁のカラー写真とともに味わいのある文章・俳句が並んで、ずっと愛でていたい一冊である。

Posted byブクログ