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明治思想史 増補 の商品レビュー

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2024/03/14

明治時代の思想史を、近代国家観が確立されるにいたる過程と、そこから個人の観念が析出されていく過程という、二つのテーマにそくして概観している本です。 竹越与三郎は『新日本史』のなかで、明治維新は旧来の社会の秩序が解体することによって起こったとみなしていました。著者は、こうした見か...

明治時代の思想史を、近代国家観が確立されるにいたる過程と、そこから個人の観念が析出されていく過程という、二つのテーマにそくして概観している本です。 竹越与三郎は『新日本史』のなかで、明治維新は旧来の社会の秩序が解体することによって起こったとみなしていました。著者は、こうした見かたに一定の妥当性があることを認め、また西洋列強の圧力が幕藩体制崩壊の直接の機縁となったことにも留意しつつ、同時に明治維新を担ったリーダーたちが「人心」「時勢」「輿論」といったことばで表現している、あたらしい時代の胎動が存在していたといいます。そして、このような歴史を動かしていく抗しがたい力を敏感に察知しつつ、近代国家をつくりあげることに努めた為政者たちの国家観を明らかにしようとしています。 つづいて著者は、明六社の啓蒙思想や自由民権運動などの歴史上に現われた諸思想と、それらに対する為政者たちの反応を概観します。そのなかから、国家と民衆の関係についてより深い考察をおこなった思想家として、徳富蘇峰、三宅雪嶺、陸羯南といった思想家たちが紹介されています。その後、国家主義から個人の本能に立脚する立場へと移っていった高山樗牛をとりあげ、近代的な国民国家のなかからそれに収まることのない個人の立場がしだいに浮き彫りになっていった経過がたどられていきます。 また、「他人本意」を排して「自己本位」の立場をつらぬいた夏目漱石の個人主義についても論じられており、興味深く読みました。ただ、近代思想史のなかで「個人」の観念がどのように形成されてきたのかということを知るためには、漱石のみならず多くの文学者たちの仕事についてのより立ち入った考察が必要となるのではないかという気がします。

Posted byブクログ