懐かしき古本屋たち の商品レビュー
清水さんはぼくのもと同僚で、イギリスの出版史、貸本屋の歴史、そして霧のロンドンで有名な牧野義雄の研究家である。その清水さんが久々に出したのが、本、そして古本屋にまつわるエッセイ集。本、古本を愛する心が頁をくるたびに伝わってくる。牧野に関しては晩年、婦人解放運動の中にあったことも明...
清水さんはぼくのもと同僚で、イギリスの出版史、貸本屋の歴史、そして霧のロンドンで有名な牧野義雄の研究家である。その清水さんが久々に出したのが、本、そして古本屋にまつわるエッセイ集。本、古本を愛する心が頁をくるたびに伝わってくる。牧野に関しては晩年、婦人解放運動の中にあったことも明らかにした。しかし、中でもぼくが感動したのは、学生との韓国旅行の際、古本屋で手に入れた『高橋新吉詩集』とその中に挟み込まれていた李鳳九氏との交流を古本屋の話をもとに掘り起こしたことである。高橋新吉は北京から朝鮮の李へハガキを出したのだが、それがおそらくそれ以前に李に送られた本とともに残っていたのである。清水さんはもちろん高橋のことは知っていたが、この李のことを調べる。李は金持ちで、当時身の回りに集まってきた貧乏文士たちのパトロン的存在だったという。李の死後その蔵書は結果的に日本の古書店が買って帰ったが、それは大量なものだった。その李の息子が後に古本屋の主人に、残っていた本といっしょに持ってきたのが、清水さんの買った詩集とハガキであった。この詩集は清水さんに言わせればとても高価なもののようだったが、それだけの価値はあったのではないか。清水さんの蔵書はイギリス出版史を研究する上で貴重なコレクションである。ぼくが心配するのは、清水さんが亡くなったあと、この好きな本たちがどんな結末をとげるかである。
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