カート・ヴォネガット全短篇(1) の商品レビュー
カート・ヴォネガットは日本にも多くの愛読者を持つアメリカ人作家である。生前に刊行された著作のほとんどは長篇だが、初期のヴォネガットは短篇作家だった。不幸にもそれらの短篇は出版社から無視され、一部の大学生だけがペーパーバックを通して彼のファンになった。 こうした実情を、われわれは作...
カート・ヴォネガットは日本にも多くの愛読者を持つアメリカ人作家である。生前に刊行された著作のほとんどは長篇だが、初期のヴォネガットは短篇作家だった。不幸にもそれらの短篇は出版社から無視され、一部の大学生だけがペーパーバックを通して彼のファンになった。 こうした実情を、われわれは作品の解説を通して、あるいは作中に登場するヴォネガットの鏡像キルゴア・トラウトのエピソードによって知っている。一部の作品群はやがて何冊かの短篇集として日の目を見たものの、大部分は図書館のアーカイブで埃をかぶっていた。本書はヴォネガットが世に出したいと考えていた短篇の全体に、はじめて光を当てた貴重な仕事である。 この全短篇は合計4巻からなるが、全体としては8つのセクションに分かれており、この第1巻にはセクション1「戦争」のすべてと、セクション2「女」の一部が収められている。 ヴォネガットにとって戦争は重要なテーマだ。しかし、彼が戦争そのものを描くことは稀である。戦闘の生々しい描写は、かえってロマンを掻き立てるからだ。そこで彼は、戦争をメタ的に扱った。本書の最初に収められている「王様の馬たちはみな」(All the King’s Horses)を例にしよう。 登場人物は主人公の大佐、妻と2人の子供、そして12人の兵士である。彼らはゲリラに捕虜として囚われている。射殺されるのだろうか? いや、もっと残酷だ。彼らの運命は、それを賭けたチェスのゲームによって決まる。ただのチェスではない。捕虜の一人一人が駒なのだ。取られた駒はその場で射殺される。そしてゲームに負ければ、全員が殺される。 ところが、やがて重要な局面が訪れる。大佐がチェックできるチャンスだ。しかも、相手はまだそのことに気づいていない。その代わり、ひとつだけ大きなデメリットがあった。大佐はナイト──すなわち彼の息子を犠牲にしなければならないのだ。おお、神よ! 作者は書く。このゲームは、理念としては戦場で経験されるものと何ら変わることはない。その通り、戦争には犠牲がつきものだ。そしてその犠牲はつねに、誰かのもっとも愛する者なのだ。ヴォネガットは戦争の残虐さをメタファーによって浮き彫りにしてみせた。 それにしても、小説家というのは何という残酷なことを考えつくのだろう。そう思うかもしれない。しかし、続く展開に私はヴォネガットの人間性を目の当たりにした気がする。そしておそらく他の読者も、彼が愛される最大の理由をそこに見るだろう。はたして彼らの運命は? 物語はクライマックスに突入する。
Posted by
全4巻のうちの1巻目のテーマは「戦争」と「女」.ただし,「女」は2巻目に続くらしい. 生前に発表されたもの,未公表だったものが混在しているので,書かれた年代順になっていないと思われるのだが,前半は戦争に対した達観,あきらめが強く,後半(「サミー,おまえとおれだけだ」「司令官のデス...
全4巻のうちの1巻目のテーマは「戦争」と「女」.ただし,「女」は2巻目に続くらしい. 生前に発表されたもの,未公表だったものが混在しているので,書かれた年代順になっていないと思われるのだが,前半は戦争に対した達観,あきらめが強く,後半(「サミー,おまえとおれだけだ」「司令官のデスク」「追憶のハルマゲドン」「化石の蟻」)は戦争を皮肉る話になっている.どちらも"ヴォネガット"的である.
Posted by
戦争がテーマの話は第二次世界大戦の米兵捕虜が主人公のものが多く、正直それほど印象に残らなかったが、女がテーマになった途端、かなり現代に通じる視点が見られて興味深かった。
Posted by
作家読みを本格的に開始してしまった笑。長編と短編を良い感じに交互に読めたらな〜と。あまりにも作品数が多すぎると作家読みを断念しそうだけど、ヴォネガットはいける気がする笑笑 さて第一作、SFではないものも楽しめた。こういう戦争ものは結構好きというのもある。特に好きだった話は、「人...
作家読みを本格的に開始してしまった笑。長編と短編を良い感じに交互に読めたらな〜と。あまりにも作品数が多すぎると作家読みを断念しそうだけど、ヴォネガットはいける気がする笑笑 さて第一作、SFではないものも楽しめた。こういう戦争ものは結構好きというのもある。特に好きだった話は、「人間ミサイル」「死園」「あわれな通訳」「略奪品」「誘惑嬢」あたり。「人間ミサイル」は涙が出そうになったし、「あわれな通訳」は声を出して笑った。そういう作品が一冊にぎゅっと詰まってるのが、すごいなあ...SF寄りの作品の好き率は高いから、2巻目もとても楽しみ(先にクンデラを読もうと思いますが) ヴォネガットのいいところは戦争ものだとしても、戦争賛美はないという安心があること。「人間ミサイル」もその安心があるから楽しめたような気がする。 「あわれな通訳」で笑ったところ 「わたしが知っていた唯一のドイツ語は、英語にするとこんな意味になるー私はなぜ自分がこんなに悲しいのかわからない。古い伝説がわたしの頭から離れない。空気は冷たく、空はたそがれて、ライン川が静かに流れている。山の頂が夕日の光を受けてきらめいている」「むこうがしゃべるのは低地ドイツ語で、自分がしゃべるのは高地ドイツ語であります」
Posted by
ヴォネガット全短編1 http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013980/ … 読んだ。1は戦地物だったのよ奥さん!そりゃヴォネガットと戦争は切り離せないと解ってるけど1冊まるまる戦争テーマはつらい、知ってたら2冊目か...
ヴォネガット全短編1 http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013980/ … 読んだ。1は戦地物だったのよ奥さん!そりゃヴォネガットと戦争は切り離せないと解ってるけど1冊まるまる戦争テーマはつらい、知ってたら2冊目から読んだのに涙(戦争ものが嫌い)でもやっぱり全体をひたひた包むリリカルさがあって心に沁みる(おわり
Posted by
- 1