歴史主義とマルクス主義 の商品レビュー
ヨーロッパの思想史において、歴史についての考えかたがどのような変化をたどってきたのかを概観し、歴史主義の成立とその諸問題について論じている本です。 古代ギリシアにおいては、人間は永遠のロゴスの秩序のもとに存在していると考えられており、歴史が独自の原理をもつという考えは生まれなか...
ヨーロッパの思想史において、歴史についての考えかたがどのような変化をたどってきたのかを概観し、歴史主義の成立とその諸問題について論じている本です。 古代ギリシアにおいては、人間は永遠のロゴスの秩序のもとに存在していると考えられており、歴史が独自の原理をもつという考えは生まれなかったと著者はいいます。しかし、中世におけるキリスト教的世界観のもとで終末論的な発想がヨーロッパに定着し、さらに近代以降は自然的世界と歴史的世界が二分されるようになり、人間的な意味の領野として歴史が理解されるようになります。しかし、こうして成立した「歴史主義」の考えは、人間の思想・文化・宗教を相対化するという問題が含まれていました。 「はじめに」で著者は、「私が行ったのは、いくつかの書物の抜粋と要約を並べることだけであって、本書はもとより細密画ではなく見取り図」であると述べていますが、歴史主義の成立にいたるまでの前史が簡潔たどられていて、有益な内容でした。また、マルクス主義の歴史観についても検討がなされています。 ただ、マルクスの労働観について論じている箇所は、本書全体のテーマから若干はずれているようにも感じました。著者は、他の動物とは異なる人間の労働のありかたについてのマルクスの思想を検討し、それをただちに「共同体」や「生産の共同性」に求める解釈をしりぞけて、まずは言語にその根拠を求めたうえで、その唯物論的な基礎を明らかにしようとしています。著者はこうした議論を展開したあと、マルクスの労働論が人間と自然の関係の歴史的な諸形態へのつながりをもっていることから、マルクスの思想の背景にユダヤ=キリスト教的な歴史の見かたが存在していると指摘しているのですが、そうした結論をみちびくことが誤りであるとはいえないとしても、本書全体のテーマに照らしてやや特殊な問題に入り込んでしまっているような印象はいなめないように思います。
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