1,800円以上の注文で送料無料

陸と海 の商品レビュー

3.8

5件のお客様レビュー

  1. 5つ

    0

  2. 4つ

    4

  3. 3つ

    1

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2019/11/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

人間は陸に暮らす動物であり、大地の上で活動をする。古くからある大地、水、火、空気というエレメントの中でも、大地は人間の基盤、ものの見方、自己の観点といったものを最も強く規定するエレメントである。なぜなら、人間は海に住む魚でもなければ、空を飛ぶ鳥でもなく、ましてや火で構成される生物などではないからである。だが、人間は大地にのみ関連づけられた動物ではない。もし人間がその4つのエレメントによってあますところなく完全に規定されているのであれば、人間は魚であったり、鳥であったり、またはこれらのエレメントの規定から生まれた奇妙な混合物であるはずだからだ。当然人間はそんなことはなく、人間はその四囲の世界に解消されてしまう存在ではない。人間は困難や危機に際しても、その精神と確固たる観察と推論によって自己を新しい存在へと救い上げていくことのできる存在なのである。 航海技術が発達した16-17世紀に、海のエレメントが噴出し「空間革命」なるものが起きる。空間の見方は個々の人間によって異なる。大都会の人間は農夫とは違うふうに世界を考え、捕鯨者はオペラ歌手とは異なる生活空間を持っている。いろいろな民族全般、人間歴史のいろいろな時代についていえば、空間観念の相違はもっと深く、そして大きくなる。空間革命のなかでも、最も根本的で影響力の大きい変革となったのがアメリカの発見と最初の世界一周航海である。世界一周によって、人間の全体意識にとって地球の全体像と、全宇宙の天文学的な全体的観念が変わったのだ。これが、空間革命の決定的な要因である宇宙への拡張、そして無限の空虚な空間という観念につながるのである。ガリレイの科学的な諸実験の結果、空間の無限性が数学的に証明できる真理となった。これによって人類は「空虚な空間」を表象することができるようになるのである。我々は、地球が太陽の周りを回っている、宇宙に無数のようにあるただ一つの星に過ぎないということが学問的真理として広く認知されている世界に生を受けたため真空に対する恐怖を忘れているが、これらの事実はこの空間革命の時代に生きた人間には身の毛のよだつほど恐怖を与えた。 16世紀以来、ヨーロッパ大陸の諸国は陸地戦に関して一定の形式を作り出していた。戦争は国家と国家の一つの関係であるという考えが根底にあったのである。戦争は一種の外交手段であり、敵として相対するのは戦闘を行う軍隊だけで、戦いに参加しない一般市民は敵対関係の外側にある。だが、それに対して海戦の根底には敵の貿易、経済に打撃を与えなければならないという意図がある。海戦における主な戦闘手段は敵国海岸の砲撃と封鎖である。つまり、海戦の構造としては敵国に加えその国と貿易を営み経済関係を結んでいる中立国も敵となるのである。これは、まったく異なった二つの世界である。一つの陸国が地球全体を包含するような世界権力を行使できるなどという考え方は陸国の世界観からすれば途方もないことだが、海上の存在にとって世界支配の手段を見出すことは陸国のそれと比べさほど難しくはないようである。海と陸という二つのエレメントの分離がひとたび地球上の根本原則となったあとで、この分裂を基礎に色々な教義、証明事項、学問体系などの骨組が打ち立てられた。 そして19世紀に人類は新たな空間革命を起こした。電気工学と電気力学の時代へと突入したのである。電気工学・電気力学は飛行機や電波技術を発明する。この空間革命は人間存在の新しいエレメント領域に第三のエレメントとして空気が加わったとする考え方を生んだ。だが、どのような技術的・機械的な手段とエネルギーをもって人間の力が空気中で発揮されるかを考えると本当に新しい人間活動のエレメントとしては火が現れてくるのである。そして、我々は次の二つのことを確実な事実として認めることができる。一つ目は、空間革命の新しい段階とともに始まった空間概念の変化に関係する。16-17世紀の人間は世界を空虚な空間の中に見出したが、今日我々が空間という場合、それはもはや考えられるすべての実質を欠いたたんなる空虚の真相次元のことではない。空間はわれわれにとって人間のエネルギーであるとか、活動とか業績とかのちからの場となったのである。二つ目は陸と海のエレメントとしての根源的な関係に関連する。海は、捕鯨者や海賊たちの時代におけるようなエレメントではなく、交通・伝達手段の空間となったのである。海と陸の分割ということがなくなったのだ。こうしてまた新たなエレメントが生まれた。古いエレメント、新しいエレメントに対する人間の新たな関係が地球の新しい習慣や法律を成長させる。古い力と新しい力との苛酷なたたかいの中にもまた正しい尺度が生まれ、意義深い調和が形成されるのである。

Posted byブクログ

2018/12/18

人類の歴史を意識のレベルでの変化に注目して振り返った本。なかなか面白かった。原著ではユダヤ人の思想として記述されたところなどが、後から削除されたなどの注も興味深い。 17世紀以降のヨーロッパにとって新大陸の与えた影響は計り知れない。不必要に贅沢になっていく。

Posted byブクログ

2018/12/02

181201 中央図書館 シュミットは「空間革命」という用語を用いる。歴史上、アレキサンダー東征、ローマ帝国の統治、十字軍運動などによりヨーロッパからみた地平は拡大してきた。しかし革命と呼べるのは、(1)新大陸の発見、地球が一つの体系として意識されるようになったこと、(2)20世...

181201 中央図書館 シュミットは「空間革命」という用語を用いる。歴史上、アレキサンダー東征、ローマ帝国の統治、十字軍運動などによりヨーロッパからみた地平は拡大してきた。しかし革命と呼べるのは、(1)新大陸の発見、地球が一つの体系として意識されるようになったこと、(2)20世紀に「空」という軸に、空間が拡大したこと である。本書は、(1)のあと、主として英国が海のパワーを駆使し「陸」に縛られた「国家」の体系の外で影響力を行使してきたことを論じる。

Posted byブクログ

2018/11/25

学生の頃に読んだ「陸と海と」の大幅改訳版。懐かしくて落手。生硬なな訳よりは理解しやすいのは良いが、意訳や評価の定まった用語などが使われていないところは残念だ。例えばp.243〜244にある、『歴史における海の権力の影響』などは、マハンによる地政学の名著である『海上権力史論』と訳す...

学生の頃に読んだ「陸と海と」の大幅改訳版。懐かしくて落手。生硬なな訳よりは理解しやすいのは良いが、意訳や評価の定まった用語などが使われていないところは残念だ。例えばp.243〜244にある、『歴史における海の権力の影響』などは、マハンによる地政学の名著である『海上権力史論』と訳すべきだ。他にもこういうの箇所が散見されるものの、かつて学生時代にはタブー視されていた学問が、広く一般に出回ることのメリットは計り知れないとも思う。

Posted byブクログ

2018/09/03

地政学とはどういうものなんだろうと思い読んでみた。二度の空間革命により、世界の秩序が大きく変化してきた経緯など、視点として興味深い。個別の出来事がマクロな視座でみたとき、しっかりとしたストーリーが見えてくるのが面白くて、世界史をもう一回勉強しようかなとか思ってしまう。

Posted byブクログ