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時のかたち の商品レビュー

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2019/06/17

本書序文でクブラーは、カッシーラー以来の象徴主義が事物から精神性だけを剥ぎ取ってしまったことを問題視する。そして事物本来の姿──精神性と物質性を兼ね備えた姿をとりもどす必要があると主張する。つまり象徴主義に事物主義を対置しようとしている。何より新鮮だったのは、象徴主義と事物主義を...

本書序文でクブラーは、カッシーラー以来の象徴主義が事物から精神性だけを剥ぎ取ってしまったことを問題視する。そして事物本来の姿──精神性と物質性を兼ね備えた姿をとりもどす必要があると主張する。つまり象徴主義に事物主義を対置しようとしている。何より新鮮だったのは、象徴主義と事物主義を対置するこの見取り図だった。 本書は1962年に出版されたというが、クブラーの事物主義は『プロトコル』『四方対象』『近代の〈物神事実〉崇拝について』などが提示する世界観と同種のものに感じられた。つまり、歴史的力学、あるいは世界を構成する事物相互の力学的均衡関係を所与の条件とし、その叙述に専心するという点で。 このような態度自体は別に新鮮なことではない。上述の本がすでに同種の態度を示している。そもそも私たち自身が、メディアの転換が歴史的力学を感じさせる時代=事物主導の時代を生きている。放っておいても、今後しばらくの間は、事物主義が力を増しつづけるだろう。 さて、それではクブラーの示した〈象徴と事物の対置〉は、私たちにいったい何を教えてくれるのだろうか? おそらくそれは、事物主義の増大によって減退しているものの正体である。すなわち、事物主義の増大によって必然的に稀少価値を増大しつつあるものが、まさに象徴主義であることを教えてくれている。その点が、私にとってはとても刺激的だった。(ややこしい言いまわしだけれど) 以上は、ごく個人的な、とても穿った感想である。もちろん、本書に書かれている内容も十分に興味深いものだった。それについては、あらためてまとめるなりなんなりしたい。 まずは本書が日本語で読めるようになったことを版元と訳者の方々に感謝したい。

Posted byブクログ