個体化の哲学 の商品レビュー
著作そのものは1958年に最初にまとめられたものだが、邦訳は去年やっと出版されて、一部で話題になっていたものだ。 時間をかけてようやく本書に取り組んでみたが、かなり凄い本だった。予備知識もなく読み始めてみると、物凄く抽象的で用語法も独特な「序論」でいきなりくらくらする。この用...
著作そのものは1958年に最初にまとめられたものだが、邦訳は去年やっと出版されて、一部で話題になっていたものだ。 時間をかけてようやく本書に取り組んでみたが、かなり凄い本だった。予備知識もなく読み始めてみると、物凄く抽象的で用語法も独特な「序論」でいきなりくらくらする。この用語の特異さ、確信に満ちた書きっぷりは、レヴィナスの「存在の彼方へ」を思わせる面があった。 そして第1部第1章では、こんどは鋳型を用いて煉瓦を作る作業の物理学的過程を、現象学ばりの緻密さで徹底的に描写する。こんな異様な哲学書を私はこれまで読んだことがなかった。 第1部は物理学的な記述や「形相・質料」概念を中心に「個体化」をめぐる極めて個性的な思索が展開される。この「個体化」の理論は、すこぶる魅力的であり、私の考え方にも近いところが多々あって、難解な書物ながらおおいに興奮させられた。 第2部は生物学的な個体化の記述から心理的個体化、集団的個体化について書かれている。人文系の知識の方が多い私たちにとっては、この後半部分の方がより近しいだろう。 全体的にはこの書物はフッサールやハイデッガーをはるかにしのいでいることは間違いないだろうが、心理的な面や倫理などについてシモンドンが書いていることは、やや頼りないと感じた。明確な根拠もない断言が多すぎるのだ。特に「不安」について書いた部分など、あれ?ハイデッガーに戻っちゃうの?と悲しくもなった。それでも、確信に満ちた文章はその特異さのために預言のようでもあり、この黙示録的な哲学を印象的なものにしている。 「個体化されたもの」ではなく、前−個体化的なものと個体化するものとの関係に注目するシモンドンの視線は、やはり私には共感する部分が多く、本書はこの上なく刺激的であった。 シモンドンが繰り出す「情報」概念については、どうも腑に落ちず、特にその辺の理屈が読解できなかった。再読するときにはそこを用心深く追いかけ直してみようと思う。
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