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失われた時を求めて(6) の商品レビュー

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2022/10/20

ドレフュス事件によって分断されてゆくヴィルパリジ夫人のサロンの様子と、死にゆく祖母の様子が描かれる。/ 祖母の最期を描くこの巻は、老いた母を抱える身には、この物語の胸突き八丁かも知れない。 どうしてもプルーストが描く祖母の末期の様子が、母の姿と重なって見えてしまうのだ。 こんな...

ドレフュス事件によって分断されてゆくヴィルパリジ夫人のサロンの様子と、死にゆく祖母の様子が描かれる。/ 祖母の最期を描くこの巻は、老いた母を抱える身には、この物語の胸突き八丁かも知れない。 どうしてもプルーストが描く祖母の末期の様子が、母の姿と重なって見えてしまうのだ。 こんなことは四年前に吉川一義訳を読んだ時は思いもしなかった。 プルーストのこの物語は、流れる雲の位置によってその陰影を変化させてゆく山の端の木々の葉叢のように、読み手のその時々の心のありようによって七色に色彩を変えてゆくのだ。/ ヴィルパリジ夫人のサロンにおけるスノビズムにみちた会話の相克を読んでいると、ナタリー・サロートの『黄金の果実』を読みたくなって来る。 サロートの「地下のマグマ」にも、随分とご無沙汰だ。 それと同時に、サロンに漂うスノビズムには、ブルデュー「ディスタンクシオン」の匂いを感じる。/ 【趣味(すなわち顕在化した選好)とは、避けることのできないひとつの差異の実際上の肯定である。趣味が自分を正当化しなければならないときに、まったくネガティブなしかたで、つまり他のさまざまな趣味にたいして拒否をつきつけるというかたちで自らを肯定するのは、偶然ではない。趣味に関しては、他のいかなる場合にもまして、あらゆる規定はすなわち否定である。そして趣味(略)とはおそらく、何よりもまず嫌悪(略)なのだ。】(ピエール・ブルデュー「ディスタンクシオンⅠ」)/ 吉川訳で読んだ時に強い違和感を感じた祖母の最期に対するあまりにも文学的な美化さえも、祖母に仮構されているのがプルーストが34歳の時に亡くなった母であるとすれば、なんだか分かるような気がしてくる。 だが、この物語の本当の力とは、時が経てばしだいにおぼろげになって、ともすれば美化されて行きがちな人間の記憶のヴェールを取り払って、惨たらしいまでにその真実の姿をあらわにして見せる「異化」の力にあるのではないだろうか?/ 巻末の「読書ガイド」で訳者の高遠さんが、自分の務めは読み進めることが難しいと言われるこの作品を、味読してもらえるような訳文を作ることだと述べているが、高遠さんの彫琢された文章は、流れるようなその読み心地といい、見事にその務めを果たすことに成功しているものと信ずる。/ 「読書ガイド」及び「プルースト年譜」は、ドレフュス事件に対する彼の態度やコレージュ・ド・フランスのベルクソンの公開講義に出ていたことなど、プルーストに関する様々な情報を知ることができて、読書に一層の味わいを加えてくれる。/ 【その間、実の娘すら直視しようとしなかった、変わり果てた祖母の顔つきに読み取れるものから目を離さない人間、祖母の顔つきに吃驚したような不躾で禍々しい視線をじっと注いでいる人間がいた。フランソワーズだった。】/ 【(略)祖母の顔は小さくなるとともに険しくなった。顔に浮かぶ静脈は、大理石の石目ではなくて、ざらざらした石の模様のように見えた。呼吸が苦しいので前に身を倒したまま、同時に疲労のせいで外の世界に気が向かず自分自身のうちに閉じこもってしまった祖母の顔つきは、摩滅したかのごとく小さくなり、恐ろしく雄弁で、原始時代の、それもほとんど有史以前の彫刻に見られる無骨な、紫がかった、赤茶色の、絶望したような、どこか粗野な墓守女を連想させた。】/ 【長年苦痛のために生じていた皺やこわばりや贅肉や張りや弛みが消えたことで若さを取り戻した顔のうえに、髪だけが老年の冠をむりやり被せているのだった。祖母の両親が娘のために婿を選んだ遠い昔の日々のように、祖母は純潔さと従順さが繊細に象られた顔立ちに戻り、頬は、歳月が少しずつ破壊してきた清らかな希望や幸福への夢、無邪気な陽気さとともに輝いていた。祖母から立ち去った生命は、同時に生への幻滅も持ち去っていった。祖母の唇のうえにほほ笑みがひとつ浮かんでいるかに見えた。死は中世の彫刻家さながら、この死の床に祖母を、うら若き乙女の姿で横たえたのである。】

Posted byブクログ

2018/11/05

古典新訳文庫版の第6巻。 本書は矢張りラスト、祖母の死のシーンだろう。このドラマティックさは素晴らしい。 岩波文庫版とは随分と差が開いてしまったなぁ……訳文としてはこちらの方が好みなので、もう少しペースが上がってくれると嬉しいのだが、なかなかそうも行かないようだ。

Posted byブクログ