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冒険の蟲たち 新装版 の商品レビュー

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2019/01/27

 登山の好きな者なら、誰しもが沢山の憧れの場所を持っているだろう。どの山に登りたいか? 憧れの山やルートを胸のうちに育て、それを実現されるために日常生活の中で、密かにその夢を実現させる計画を立て、その準備を少しずつ進めてゆくだろう。  その夢の困難さやスケールは人によって違ったっ...

 登山の好きな者なら、誰しもが沢山の憧れの場所を持っているだろう。どの山に登りたいか? 憧れの山やルートを胸のうちに育て、それを実現されるために日常生活の中で、密かにその夢を実現させる計画を立て、その準備を少しずつ進めてゆくだろう。  その夢の困難さやスケールは人によって違ったっていい。その人の置かれた状況、自分にフィットしたもの。例え難しかろうと実現不可能ではなく、手繰り寄せることのできるもの。  また、それが若いうちであればどうだろう。時間と体力はあるが金と恐怖心はないという充実した青年期であればどうだろう。その時代に見た夢、実現させた夢、それを大切に抱えて残りの人生を生きて行ける礎に代えることのできるほどの経験。  北南米大陸大陸を車で縦断しながら充実した登山も楽しもうという計画を立てた三人の若者たちによる実際の記録を一冊に纏めたのが本署である。40年余りの歳月を経て、ぼくは今1976年の山と冒険の記録に興奮している。  船戸与一の作品に出てくるような強烈な殺し屋も、ジャック・ヒギンズの小説に出てくるようなアマゾン上空を飛ぶオンボロ飛行機も登場しないが、戒厳令下で唸る銃撃音や油断ならない泥棒少年や、危険な肉食ドジョウは、現実の記録として登場する。  この世の果てのような広大な距離をオンボロ・シボレーのマラバ号に乗って走る男たちの脳天気な自由さも、未踏の岩壁で命からがらの登攀に気力と体力を賭ける一途さも、若く充実した青春の両側面だ。  僻地に住む移住者たちや仲間たちに助けられながら、一年近くに渡る冒険の旅を実際に続けた物語の破天荒な面白さは、一流の冒険小説家でさえ思いつけない奇跡とタフさに満ちている。  巻末に関わった方たちの想い出が寄せられており、これも血の通った温かいものばかりでじんと来ます。  ベトナム戦争の終結、猪木対アリの一戦、『真夜中のカウボーイ』、あの時代、自分は近くはなくてもこの本の人たちとそんなに遠いところにいたわけではなかったかな、と今さらながら自分の無茶苦茶だった青春の弱さも逞しさも思い返すことができた。  何だか、心が熱く、温かくなる、期待通りの一冊なのでありました。

Posted byブクログ