キルプの軍団 の商品レビュー
☆4.5 ヒューモアにあふれてゐる 大江作品のなかではめづらしく、『静かな生活』と同様に、こどもの視点からえがいた小説。 冒頭からのディケンズ『骨董屋』の読解がつづき、カッタルイかもしれない。けれど、ゆっくり読めばいい。しだいに主人公のオーちゃんがかたる高校生の生活――おも...
☆4.5 ヒューモアにあふれてゐる 大江作品のなかではめづらしく、『静かな生活』と同様に、こどもの視点からえがいた小説。 冒頭からのディケンズ『骨董屋』の読解がつづき、カッタルイかもしれない。けれど、ゆっくり読めばいい。しだいに主人公のオーちゃんがかたる高校生の生活――おもにオリエンテーリングと忠叔父さんに惹かれてくる。百恵さんや鳩山さんが魅力的なキャラクタとして登場する。結末は活劇めいてちょっとのめりこんだ。 印象としては、「河馬に嚙まれる」や「僕が本当に若かった頃」の要素に、「静かな生活」のアクションを足した長篇。 講談社文庫版のあとがきには、『キルプの軍団』がいちばん好きだといふ三十代のファンと、ドイツで会った旨が書かれてをり、同時代の若い人にむけためづらしい小説だといってゐる。 岩波文庫版の小野正嗣の解説はすこし的外れだらう。モデル小説として家族をいけにへにする、その罪のゆるしといふ解釈がなされてゐる。しかし、そのやうな局所的な思ひが大江にあったか? 尾崎真理子も、全小説の解説で指摘してゐる。 NHKの100分de名著の『燃えあがる緑の木』の特集でも、大江がむつかしいといふNHKキャスターにたいして、どこがむつかしいんですか?と小野は言ったさうで、なんだか鼻持ちならないなと私はかんじてゐた。 大江をむづかしいとかんじるひとがゐるのは当然のことで、だから村上春樹は大江から離れたのだらうし、大江も後期は文章の改善に努めた。私も文章さへどうにかなればとおもひ、大江と村上の融和こそが、つぎの小説だとさへかんがへた。 ちなみに、さがしたら「キルプの軍団」といふボカロ曲があった。
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おーちゃんは忠叔父さんを第二の父親のように慕い、ディケンズなど小説の事を共有しながら関わりたかったのだろう。 百恵さんや原さんたちは、そんな忠叔父さんに付随する忠叔父さんの気にかける大切な人。 だから余計に、おーちゃんは映画基地にのめり込んだと思う。 そして忠叔父さんがいなくても、一人前になった気分で映画基地に通っていたからこそ、タローちゃんの事件が起きても 警察権力としての叔父さんを行かせるのを渋ったのだろう。 寝込んでから、おーちゃんは家族のもとに戻ってきたのだと思う。忠叔父さんは「一般的な叔父さん」に戻り おーちゃんの家族は父親、母親、姉、そして兄で そんな家族に救われ復活出来た。
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最後に実名で大江光の作曲が出てくる。大江の日常生活の冒険と内容が一部重なっている。ディケンズの小説を原書で読んでいるオーさんが主人公であるが、その警察官であるおじと作家である父がいる。そして映画製作する原が党派の争いで間違って殺され、サーカスで一輪車に乗っていた女性が遺される、と...
最後に実名で大江光の作曲が出てくる。大江の日常生活の冒険と内容が一部重なっている。ディケンズの小説を原書で読んでいるオーさんが主人公であるが、その警察官であるおじと作家である父がいる。そして映画製作する原が党派の争いで間違って殺され、サーカスで一輪車に乗っていた女性が遺される、という複雑な話である。 朝日新聞での大江の追悼で紹介された本であるが、代表的な小説としては宣伝されていないので、いままで読むことがなかった。
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ディケンズの骨董屋を読み進めていく過程が楽しい。また、小説家の父に対するオーちゃん目線の描写にクスリとする。「事件」自体は陰惨な印象があるものの、少年の一人称目線の平易な文体で清々しい一作。
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一度何処かで文庫化されていたような記憶があったが、巻末の初出を確認すると岩波から出た後、講談社文庫で出て、再び岩波に戻ってきたようだ。 大江健三郎の長編の中では余り知られていない作品ではあるが、この柔らかい雰囲気が好きだ。
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