目の眩んだ者たちの国家 の商品レビュー
キム・ヨンスの「自分の失敗だけは忘れてしまう忘却、自分のことはよく知っていると考える無知、そして歳月とともに自分はだんだん良くなっていると思う錯覚から抜け出さなければならない」って言葉がずっと残ってる。
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胸が痛む。何度も本を置いて深呼吸した。今の日本にも当てはまると思う。*時間が流れれば歴史は進歩すると私たちが思い込んでいる限り、だんだん悪くなっていくこの世界をつくった犯人は私たち自身だと言うしかない。
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この事故のことはうっすらと覚えているが、韓国内で事故という言葉で済まされないほど、大きな事態になっていたことを本書で知った。 ほぼすべての執筆者に共通する記載は ・初期の乗客全員救出という誤報 ・船内の「じっとしていなさい」という指示 ・責任ある人間たちの逃亡 ・繰り返される政治...
この事故のことはうっすらと覚えているが、韓国内で事故という言葉で済まされないほど、大きな事態になっていたことを本書で知った。 ほぼすべての執筆者に共通する記載は ・初期の乗客全員救出という誤報 ・船内の「じっとしていなさい」という指示 ・責任ある人間たちの逃亡 ・繰り返される政治家の嘘と釈明 であった。 執筆者たちは口を揃えて「変わらなければならない」「変わるにはどうしたらいいか」の言葉で締める。そうまとめるしかないんだろうな、と、自分の国を見ても思う。
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セウォル号事件に真摯に向き合う論集。セウォル号は大韓民国、わたしたちであるというメタファーのなかで格闘する論者たち。一条の光も見いだせない厳しい内省だ。
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韓国、2014年セウォル号沈没事件へ寄せた作家、詩人、学者たちの、自国に対する痛烈で切実な思い。 「この国に絶望するのは簡単」と言うこともまた簡単なのだと書く作家の言葉に両手が折れそうなほどの重みを感じた。 深い海の色をした、船が眠る世界の色をした表紙。 全員がそれぞれの言葉で...
韓国、2014年セウォル号沈没事件へ寄せた作家、詩人、学者たちの、自国に対する痛烈で切実な思い。 「この国に絶望するのは簡単」と言うこともまた簡単なのだと書く作家の言葉に両手が折れそうなほどの重みを感じた。 深い海の色をした、船が眠る世界の色をした表紙。 全員がそれぞれの言葉で事件のことを語り、自身の来し方を顧みて途方に暮れ、それでもこの国に言いたいことがある、言わなきゃならないことがあると綴られた文章たちは簡単には咀嚼できない。 各々の領域で語ること、沈んだ船と亡くなった高校生たちの声に「応答する」こと。 それを決して諦めないこと。 ここに文章を寄せた人たちは自分の国に絶望しながらも自分の国のことを諦めていない、諦めていないからこそペンを取った人たちだと思った。 国の暗部を、取り返しのつかない欠陥を目の当たりにして、日本人もまた同じほどの切実さでペンを取ることはできるのだろうか。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
まだ風化せず残っている(私には、かろうじてだけれど)セウォル号沈没事件ーーそう、「事件」について寄せられた文集である。 韓国は詩の国、そう先導してくれたのは茨木のり子さんの『言の葉』で、くにに(民族に?)よって決まりが異なることを教えてくれたのは中村哲さんの『アフガニスタンの診療所から』だった。このふたつの考えに助けを借りて、ほんとうに少しづつ読み進めた。 凄惨な「事件」(つまり「犯人」のいる)について書かれているからということもあるが、くわえて、その「事件」に投げかけられることばの鋭角さにショックを受けたのだと思う。おそらくもとのことばでなければ意味の取れない単語がいくつかあるとも考える。 そうして、引き比べて暗澹となったのは私たちのくにのことだ。セウォル号沈没事件のあったくにを、かつてくろぐろと墨を塗ったくにをーー韓国をばかにしているくに、つまりこの日本は、その内実がはるかにひどく蝕まれていることに、より鈍感だ。 私は「クールジャパン」とかなんとかいう番組を観て感嘆する父、少女像についていつまでなにを言っているのだろうという母、急速に右傾化する弟と家族だ。恥ずかしいのではない。私自身にいつ芽を出すかわからない、無自覚で無邪気な「自分のくには良いくに大丈夫」という神話や差別などの芽があることがわかっていて怖いのだ。 最善を尽くす。最大限努力する。それは私たちのくにでもよく聞かれることばだ。人間が「歯車のよう」と形容されつつ、「その場にあって精緻に機能する」歯車になるまで鍛えられることがないくにというのも同じ。プラスペンの行き先も。責任を取らない上部にかわってすり減る、「ちゃんとした人々」も。そして文集のトリにあたるホン・チョルギさんの項を読んで本当にゾッとした。政治に経済を取り込んだ新自由主義の犠牲になるものは、「◯◯も輝く社会」としてむりやり輝かせられる私たちの一側面ではないのか……。 私たちはいままでの政治が取り上げてきたものに目を向けつつ、主体性を取り戻さなければならないだろうと思う。このとき、茨木のり子さんのいう「自分なりの調整」をして、「おとなりのくに」と話し合うことは決してむだではないだろう。かなしいかな、まだ私には言語的手段がない、けれど。
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キム・ヨンス(『夜は歌う』)の『さあ、もう一度言ってくれ。テイレシアスよ』面白かった。進歩史観への疑義と警鐘をオイディプス王に絡めて。バイヤールの『予想剽窃』の概念興味深い。この人古今東西の本(論文含む)大量に読んでそうだな…前置き長かったけど 官フィア、民営化 詩的教育学、ボー...
キム・ヨンス(『夜は歌う』)の『さあ、もう一度言ってくれ。テイレシアスよ』面白かった。進歩史観への疑義と警鐘をオイディプス王に絡めて。バイヤールの『予想剽窃』の概念興味深い。この人古今東西の本(論文含む)大量に読んでそうだな…前置き長かったけど 官フィア、民営化 詩的教育学、ボードレール『パリの憂鬱』 新自由主義
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2014年4月16日の「セウォル号惨事」と、それ以後の韓国政治・韓国社会の動向をめぐって、12人の小説家・詩人・研究者が振りしぼるような言葉を書きつけた一冊。 12名の事件者は比較的近い世代に属するとは言え、キャリアも専門も得意分野もそれぞれ違う。しかし。本書から受ける印象は...
2014年4月16日の「セウォル号惨事」と、それ以後の韓国政治・韓国社会の動向をめぐって、12人の小説家・詩人・研究者が振りしぼるような言葉を書きつけた一冊。 12名の事件者は比較的近い世代に属するとは言え、キャリアも専門も得意分野もそれぞれ違う。しかし。本書から受ける印象は、どちらかというと個性というよりは、「惨事」と韓国社会に対する強く静かな怒りと祈りである。書かれている内容もそれほど違わない。真相を、事実を究明すること。そして、この事件を「韓国」という国家と社会の歴史の縮図として捉えること。 そして、こうして見ると、研究者の議論より、小説家と詩人のことばの方がはるかに沁み渡る。キム・ソヨンとホン・チョルギは精神分析と政治学の研究者だが、理屈が先行してしまって、ことばが浮いてしまっている印象。むしろ誠実にことばの無力と向き合う文学者たちの凄みの方が際立つ。彼ら彼女らのことばに、とくに奇を衒った言いまわしは存在しない。しかし、刻みつけられた文字は、それぞれの厳しい思考と倫理意識をくぐり抜けた末に生まれ来たものであることを、確かに確信させてくれる。
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セウォル号沈没事件を切っ掛けに社会の抱える問題があまりに赤裸々に白日の下に曝されたけれど、ここで曝された問題の恐ろしいところは社会の構成員のほとんど全員が一方的な被害者ではなく、むしろ加担側だったんではないかと考えられるところ。薄々気づいていた、予兆はあった、けれど見て見ぬ振りを...
セウォル号沈没事件を切っ掛けに社会の抱える問題があまりに赤裸々に白日の下に曝されたけれど、ここで曝された問題の恐ろしいところは社会の構成員のほとんど全員が一方的な被害者ではなく、むしろ加担側だったんではないかと考えられるところ。薄々気づいていた、予兆はあった、けれど見て見ぬ振りをしていた問題が最悪の形で露呈したのがセウォル号沈没事件であり、これは決して韓国社会だけの話ではないと思った。 原発や差別や社会保障等、日本だって重大な問題を複合的に抱えながら具体的な解決方法を見い出せないままずるずる日々が過ぎている。 何が正解か誰も知らないような途方のない問題を前に、ちっぽけな個々人がそれらとどう向き合うべきかを切実に誠実に語る本書は日本にとっても光明のような作品だと思った。
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