ヒト、この奇妙な動物 の商品レビュー
同時期に出版されたデネット「心の進化を解明する」とどちらを購入するか迷ったが、原書の改訂が重ねられており内容的にこなれていそうで、かつ取っ付きやすそうだったこちらを購入。しかし価格は殆ど変わらない(どっちも高い)。 著者はフランスの一般向け科学雑誌編集・発行人。本書は近年の複数...
同時期に出版されたデネット「心の進化を解明する」とどちらを購入するか迷ったが、原書の改訂が重ねられており内容的にこなれていそうで、かつ取っ付きやすそうだったこちらを購入。しかし価格は殆ど変わらない(どっちも高い)。 著者はフランスの一般向け科学雑誌編集・発行人。本書は近年の複数の研究領域が収斂して成立した「進化心理学」の研究領域を俯瞰しつつ、人間が他の動物にはない社会性・精神性を獲得したのはなぜかを解き明かそうとするもの。人間が想像力をもつに至る過程やそのメカニズム、そしてそれらが「象徴文化」と呼ばれる精神活動にどのように寄与しているかが平易な言葉で語られている。扱う学術的範囲が非常に広いが、各所に用語の定義や論点がわかりやすくまとめられており読みやすかった。 本書の読みどころは、議論が一見クラシカルな「本能か文化か」の対立を軸に進むかに見えて、実は「象徴文化の具備が飛躍的であったか漸進的であったか」が中心に論じられる点。漸進説は進化心理学のパラダイムの一つである「脳のモジュール性」を基盤とし、個々の課題に対応するためのミニプログラムが徐々に蓄積されていったとする一方、飛躍説はある特定の時期に「象徴ビッグバン」が起こり短期のうちに自然との決別が起こったとする。 筆者はどうやら環境と脳が互いにフィードバックする形で影響しながら進化していくという「共進化」説を論拠に前者にシンパシーを持っているようだが、無論これぞという決定打があるわけではない。19世紀以降になって漸く研究の進んだ分野であり、またカバーする領域に相当な拡がりがあることからしても、今後もさらなる議論の深化が期待されるところだ。
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