黙秘の壁 の商品レビュー
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黙秘の壁 ~名古屋・漫画喫茶女性従業員はなぜ死んだのか 藤井誠二著 2018年5月20日発行 潮出版社 平成24(2012)年4月、名古屋市中川区の漫画喫茶に勤めていた41歳の女性が死亡し、遺体が知多半島の南端、南知多町の山中に埋められる事件があった。同年11月、漫画喫茶を経営していた夫婦が警察から任意取り調べを受けたが、その際、夫婦はそれぞれ上申書を出して死体遺棄を認めた。夫婦の自供に基づいて遺体を捜すも、見つかったのは翌年の4月、DNA鑑定の結果、被害者本人だと確認されて夫婦はやっと逮捕された。 通常、ここから夫婦を殺人や傷害致死などの罪状で調べて起訴に持ち込むのが常套だが、検察は傷害致死等での起訴は断念した。公判維持することが無理と判断した。物証がないのはもちろん、最大の壁は夫婦が一転、黙秘に転じたため。最初は傷害致死を認めるような自供もしていたが、被告の夫婦はそれぞれ別々に、刑事弁護で強力な有名弁護士をつけた、その途端、黙秘に。弁護士の入れ知恵であることは確実。死体遺棄についても、遺棄したことは認めたものの、他のことは黙秘、公判でもそれを通した。 結局、死体遺棄については実刑判決が出たものの、被害者の死亡原因については一切不明、闇に葬られることになった。両親は納得できるはずがない。しかし、夫婦が出した何枚かの上申書を公開請求すると、黒塗り部分だらけのものだった。公開されているのは、被害者の息がなくなった、心臓マッサージをした、見つかるとまずいので死体を遺棄した、というあたりだけ。 両親や弁護士、著者の藤井氏は、何度も黒塗りなしの上申書を請求したが、検察は理由をつけて拒否を続けた。起訴前に出してはならないなどの規定があり、起訴されない事案については出せない、などの理由だった。 しかし、両親の執念が実ったのか、検察は意外な対応に。公開は出来ないが(黒塗り部分は見せないが)、その部分を「説明する」との対応を見せた。すなわち、読み上げてくれるというわけだ。夫婦はノートに読み上げ部分を書き取った。その結果、全貌が明らかになり、被告の夫が長男の経営するラーメン店で、調理道具を使って暴行し、死に至らしめていたことが分かった。それでも検察は起訴まで持っていけなかった。 両親は民事訴訟を起こし、公判での無念を晴らそうとする。しかし、民事裁判でも被告夫婦は黙秘を通す。判決では、彼等による傷害致死が「高い蓋然性」という表現で実質的に認定される。だが、被告2人に対して命じられた9千万円近いお金について、控訴もしないが、払う意思はないとの通告を被告代理人がしてきた。 なんともひどい、やるせない話で終わった。民事の判決を受け、刑事での起訴が行われる可能性はなくもないとのことではあるが。 こんな事件があったとは知らなかった。この本は、当概事件にまつわる不可解な点を追ったノンフィクション。国家権力に対する個人が持っている対抗手段の「黙秘する権利」が、使い方によって“悪用”されうるものであることを世に問う本でもある。 なお、この本、日本語が変では?という箇所と、校正ミスと、併せて2カ所発見。
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ぼくらの業界で言われていたほどには、ひどい本だとは思わなかった。刑事事件では証拠が足らずに不起訴、民事事件では加害行為が認められて勝訴という例はこれまでもあったし、遺族の思いはきちんと伝わってくる。
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