水俣へ 受け継いで語る の商品レビュー

水俣フォーラム(編者)

2019/05/23

　水俣に関する講演集。さまざまな切り口から語られる講演の数々から、水俣の問題が単なる一企業の過失という問題ではなく、科学、政治、経済成長、社会といったあらゆる領域にわたる近代社会の本質に根差す問題だということをあらためて認識させられる。
　わたしたちは他社の苦しみに対する想像力を失ってはならないし、その問題の源はどこにあるのかと考え続けなければならない。そこには語られざる苦しみの声がある。
　水俣病が一企業の問題のみならず日本経済や広い意味での社会的な問題でもあるということは明らかだが、歴史的な背景を指摘する網野さんのお話が興味深い。網野さんは水俣病の背景に、日本社会が制度的に田畑やコメを重視し海を軽視してきたことがあるのではないかという。そしてまた中村恵子さんは、生命科学（生命誌）という点から世界を捉えなおす。こうした話を興味深く読んだ。
　さまざまな切り口から論じられる話に、一市民としてどうすればこのような惨禍を二度と起こさないように出来るのだろうか、と思った。