相続の仕事の現場で使える民法 の商品レビュー
本書は、資産税を中心に業務を行なっている税理士の方などを対象に「これが知りたかった」と思ってもらえるような事例を集めて解説している。本書を通じて、相続の基本、相続対策、相続開始後の手続と、相続実務のプロセスに従って民法上の制度と相続手続の実務を理解することができる構成だ。相続税の...
本書は、資産税を中心に業務を行なっている税理士の方などを対象に「これが知りたかった」と思ってもらえるような事例を集めて解説している。本書を通じて、相続の基本、相続対策、相続開始後の手続と、相続実務のプロセスに従って民法上の制度と相続手続の実務を理解することができる構成だ。相続税の解説も多く取り上げられているため、税務の知識も身につけることができる。資産税を行う税務専門家にはお薦めの書籍だ。 P131 (1) 遺産分割における財産の評価方法 遺産分割には、被相続人の遺言に基づく遺産分割方法の指定(民法908条)、相続人全員の合意に基づく遺産分割協議(民法907条1項)、家庭裁判所の審判に基づく分割審判(民法907条2項)の三つの方法があります。 いずれの方法をとるにせよ、相続財産が金銭以外の物である場合には、分割の前提として、対象財産の評価額はいくらか、いかなる評価方法により対象財産の評価額を確定すべきかが問題となります。 なお、遺言に基づく遺産分割方法の指定以外の方法による遺産分割の場合には、相続の発生から分割が実行されるまでの間に一定の期間があります。この一定期間が経過する間にも、相続財産である不動産等の価格は変動することがあります。この場合、判例では、遺産分割時の価額により分割するものとしています(大阪高判昭和58年6月2日)。 P171 家庭裁判所では、相続分の譲渡証書が譲渡人本人の意思に基づいて作成されたことを担保するために、原則として、譲渡人の印鑑登録証明書の添付が必要とされています。印鑑登録をしていない者や外国に居住している者など、その提出を要求することができない場合には、例外として、他の代替的な方法により本人が作成したことを確認する取り扱いがされています。 3 税務上の取扱い (1) 相続人間における相続分の譲渡 相続人間で相続分が有償あるいは無償で譲渡された場合、その相続分の譲渡に関しては、相続税以外の譲渡所得税や贈与税の課税は行われません。相続人間の相続分の譲渡は、有償で行われた場合には代償分割、無償で譲渡された場合には取得分がない遺産分割協議が行われたことと同様になるからです。 (2) 第三者に対する相続分の譲渡 相続人以外の第三者に対して相続分が譲渡された場合、譲渡を受けた第三者は遺産分割協議に参加することになりますが、その第三者は相続または遺贈により財産を取得していないため、相続税法に基づく相続税の納税義務者にはなりません。したがって、相続分を譲渡した相続人が相続税の納税義務者となります。 また、その相続分を有償で譲渡した場合には、相続人(譲渡人)は、譲渡所得税の申告も合わせて行うことになります。なお、無償で相続分を譲渡した場合には、譲受人の贈与税の申告が必要となります。 P232 1 準拠法の決定 贈与にあたり、贈与者と受贈者で贈与契約(民法549条)を結ぶ必要があります。ここで、日本に住む日本人とW州等の米国に住む米国人との間における贈与に当たっては、日本法とW州法のいずれの法律が適用されるかという準拠法の決定が問題となります。 まず、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」(法の適用に関する通則法7条)とされており、契約については、取引の安全を守り、当事者の意思を尊重すべきことから(当事者自治の原則)、当事者の合意により準拠法が決定されます。 次に、法の適用に関する通則法8条1項によれば、「前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による」とされており、契約の準拠法の合意がない場合には最密接関係地の法律が準拠法となるとされています。しかし、当事者が日本に居住している者および海外に居住している者の場合には、 いずれの準拠法が契約において,最密接関係地法といえるかが不明確であり、紛争の原因となるものです。 したがって、あえて準拠法を決定しないで紛争の原因を作るよりも、贈与契約を締結するに際しても、適用される準拠法を合意によって明確に決定すべきものといえます。
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